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 総務省行政評価局に設けられた「年金記録問題検証委員会」(以下,検証委)が10月31日,最終報告書を公表した。この最終報告書に関しては,新聞,テレビで様々なコメントや論評が寄せられた。

 それらを読みながら,「期待と現実の狭間」という感想を抱いた。検証委の報告は,第三者である総務省行政評価局の業務として行われたものである。厚生労働省・社会保険庁が引き起こした年金制度運営に関する諸問題の解決を目指して,当事者として解消策を検討・策定するというものではなかったからだ。

 厚労省・社保庁の諸問題の解決,解消は相変わらず社会保険庁の業務改革本部に委ねられている。立法によって社保庁を日本年金機構と全国健康保険協会に分割することまでは決まっている。だが,その先の具体策は,実は何も決まっていないと映る。分割そのものも社保庁業務改革本部が管轄しており,国民と被保険者が期待する方向で解決・解消することは保証されていない。第三者の介入も限定的だ。

5000万件を宙に浮かせた「基礎年金番号」の運用開始

 この最終報告書では,「5000万件の宙に浮いた年金記録」を発生させたのは1997年には発足した「基礎年金番号」制度の運用開始だったことが,明らかにされている。報告書の「公的年金制度の変遷の概要」には,次のような記述がさりげなくある。

 公的年金制度における被保険者等の年金記録は,それぞれの制度ごとの年金番号により別々に管理されていたため,被保険者一人一人について,各制度を通じた生涯の加入記録をまとめて把握することが困難であり,適用や年金裁定等の際に様々な問題が生じていた。

 このため,すべての制度間で共通して使用する「基礎年金番号」を創設し,各制度間を移動する被保険者等の情報を的確に把握する仕組みを構築することとなった。

 社会保険庁は,平成8年12月に,年金受給者には基礎年金番号を記載した新しい年金証書を,また,公的年金加入者には基礎年金番号通知書を送付する等の準備を行い,9年1月から基礎年金番号に基づく業務を開始した。

 基礎年金番号の創設以前,国民年金,厚生年金などの制度ごとに年金記録は維持され,被保険者や受給者にとって大過なく運営されていた。そこに,社保庁が基礎年金番号制度を発足させて,そこに年金記録を統合しようと試みた。ところが,その試みを正確に実行しなかった。この結果,すでに1997年(平成9年)1月時点で宙に浮いた5000万件は発生していたと認識できる。

 簡単にいえば,データのマージが不完全で不十分だったのだ。

(注)基礎年金番号の創設当時,政府は基礎年金番号と納税者番号(米国のソーシャル・セキュリティー・ナンバーに酷似)をリンクさせて,納税者番号を個別識別IDとして年金制度を統合しようとしていたという説がある。確証が得られない話なのだが,もし本当であれば,そのことで基礎年金番号の制度設計や必要な情報通信システム(Information & Technologies System: ICTシステム)がいい加減になった可能性もある。確証を得るためには,その当時の経緯が記録されている公文書を情報公開法の手続きによって入手して,精読と分析を行う必要があるだろう