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本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

能力成熟度モデル(CMM)は,世界共通の実力判定基準により,ソフトウエア開発能力の弱点を的確に見つけ出す手法である。CMMを使って開発プロセスを継続的に改善しているソフトウエア開発会社の事例を通して,CMMの実践的な導入法と,CMMに基づいてソフトウエア開発プロセスを改善する手法を紹介する。

 「自社のソフトウエア開発の実力を,業界で広く通用する基準に従って把握したい」。エンジニアリング系のソフトウエア・パッケージ開発や受託開発を手掛ける構造計画研究所の荒木貞雄Q.A.部長は,「CMM(Capability Maturity Model,能力成熟度モデル)」と呼ぶ手法を活用する理由をこう語る。

 CMMとは,ある企業のソフトウエア開発の能力を,開発プロセスと組織の成熟度に応じて5段階で評価する手法である。1980年代の後半,米国防省が優秀なソフトウエア開発会社を選定するために,米カーネギメロン大学のソフトウエア工学研究所(SEI)に依頼して開発させたものだ。

 構造計画研究所は,1994年6月に初めてCMMによる開発能力の評価を実施して以来,現在に至るまで定期的にCMMによる評価を続けている。

最初の評価は最低レベル

 構造計画研究所がCMMを導入した狙いは,「組織的」なソフトウエア開発の体制を作ることだ。荒木部長によれば,「CMMを導入する以前のソフトウエア開発は,システム・エンジニアの個人的な能力に頼りすぎていた。開発プロセスは結構あいまいで,システム・エンジニアに組織的な行動を求めることはできなかった」。したがって,いくら優秀なシステム・エンジニアを集めても,うまく行かないプロジェクトが少なくなかったという。

 実際,1994年6月に同社が実施した初めてのCMMの評価結果は,最低ランクの「レベル1」だった。レベル1は,コスト,スケジュール,仕様変更などを,十分に管理できない状態を指す(表1)。

表1●能力成熟度モデル(CMM)の5段階の成熟度レベルと各レベルに属する企業の構成比
表1●能力成熟度モデル(CMM)の5段階の成熟度レベルと各レベルに属する企業の構成比

 その後の6年間の継続的な改善活動が実を結び,最近は同社の成熟度は「レベル2」で安定している。レベル2は,プロジェクト管理によってコストやスケジュールを適切に管理できる状態を指す。

 しかも,「もう少しでCMMのレベル3に到達できそうなところまで,ソフトウエア開発部門の成熟度が上がってきた」と荒木部長は語る。レベル3は,開発プロセスやプロジェクト管理プロセスが明確に定義され,開発作業を組織的かつ着実に進められる状態を指す。

 SEIの最近の調査によれば,CMMを導入した企業に占めるレベル3以上の割合は,わずか20%にすぎない。国内のソフトウエア開発会社の大半は,レベル1の実力しか持っていないと言われている。レベル3を達成した企業には,かなり高度なソフトウエア開発能力があると考えてよいだろう。

社員の3分の1にアンケート調査

 構造計画研究所は,一体どのようにしてソフトウエア開発部門の成熟度を「レベル3寸前」のところまで引き上げることができたのだろうか。同社で実施しているCMMの評価手順に従って見ていこう。

 CMMで評価するのは,「組織」,「プロジェクト管理」,「プロセス管理」,「技術」の4分野にわたる15項目である。例えば,プロジェクト管理の分野では,「計画」,「追跡」,「プロジェクト・コントロール」,「外注」という4項目がある(表2)。

表2●CMMで評価する4分野15項目
表2●CMMで評価する4分野15項目

 各項目ごとに成熟度レベルを判定する基準があり,それが日常の業務で実現できているかどうかをアンケートやインタビューによって調査する。構造計画研究所では,CMMの文献を参照して,CMMの思想に沿った質問票を独自に作成した(表3)。15の評価項目ごとにa~hの八つの質問を用意し,評価項目ごとに成熟度レベルを判定する。

表3●構造計画研究所で実施しているCMM調査の質問票の一部。プロジェクト管理における「計画」作業の成熟度を調べるためのものである。a~hの八つの質問があり,aからhの順で質問のレベルが高くなっている。aの質問から順に「はい/いいえ」で答え,最初に「いいえ」と答えた質問の一つ前のレベルが調査対象部門の成熟度を示す
表3●構造計画研究所で実施しているCMM調査の質問票の一部。プロジェクト管理における「計画」作業の成熟度を調べるためのものである。a~hの八つの質問があり,aからhの順で質問のレベルが高くなっている。aの質問から順に「はい/いいえ」で答え,最初に「いいえ」と答えた質問の一つ前のレベルが調査対象部門の成熟度を示す

 アンケートは,部長,室長クラスの人には必ず回答してもらう。リーダー格の社員も調査に参加できる。アンケート調査は,CMMを導入した1994年から1997年までは年2回,1998年以降は年1回ずつ実施している。

 1999年6月の調査では,合計99人から回答があった。調査対象となったソフトウエア開発部門に所属する社員は300人弱。3人に1人の割合でアンケート調査に答えたことになる。