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 フラット化の実現に向けてIBMがもう一つ徹底するのが、“IBM標準”の確立と浸透だ。インフラ技術や運用体制を標準化し統一すれば、「日本で開発し運用段階に入った顧客のシステムを、インドなど海外のセンターに移すことも容易になる」(橋本常務執行役員)。

 標準化を進める上でIBMが特に重点分野に挙げるのがミドルウエアと、それを取り巻く技術である。フラット化を実現するためには、個別のアプリケーションとして開発する割合を減らし、ひな型化した処理をミドルウエアで実行したいからだ。

 IBMのミドルウエア戦略が一気に加速するのは03年ごろから(図2)。以後、IBMの主な買収案件を見ると、ミドルウエアの開発会社が31件に対して、それ以外のコンサルティング会社などは9件。いかにミドルウエアに注力しているかが分かる。

図2●2003年までに5ブランドを確立した後は、システム/情報管理用のミドルウエアの買収を強化
図2●2003年までに5ブランドを確立した後は、システム/情報管理用のミドルウエアの買収を強化
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 そのIBMは全世界で約2万6000人のプログラマを抱える。日本企業のように自前でミドルウエアを開発することも容易なように見える。

 この点について、IBMのソフトウエア事業の総責任者であるスティーブ・ミルズ上級副社長は、「多様化する顧客のビジネス・プロセスを満たすためには、自社リソースだけでは難しい。必要な技術を持つ会社を買収する必要がある」と説明する。

 買収時には、アーキテクチャの整合性だけでなく、財務状況や企業文化といった側面も考慮する。買収した製品は、2、3年でIBM製品として書き換えられ、IBMのミドルウエア戦略に組み込まれる。ミルズ副社長は、06年中にさらに3、4社の買収があり得ることも示唆した。

技術開発も“全体最適”を徹底

 ミドルウエア買収戦略においてもIBMは、“全体最適”の姿勢を崩さない。ソフトとハードの両部門が議論し、プラットフォームとしての一貫性を確保する。

 IBMでサーバーをはじめとするシステム製品のマーケティングと戦略立案を担当するアニル・メノン副社長は、IBM社内での重要事項の決定プロセスをこう説明する。「システムの方向性や、買収案件については、ハードとソフトの両部門の幹部が参加するITMT(ITマネジメント・チーム)で決定する。私とソフト部門の幹部が共同議長を務めている。私が『OK』を出しても、共同議長が『NO』と言えば案件は却下される。システムとしての整合性が問われるのだ」。

 そのため、サーバー部門がミドルウエア買収を提案するケースも多い。仮想化を担当するケビン・レーニー、マーケティング・ディレクタは、「ミドルウエアはIBMが目指すシステムの実現に必要不可欠。最近もCIMSラボの買収をソフトウエア部門に要請したのは、仮想化においては個々の顧客がどの程度コンピュータのリソースを利用しているのかを測定する仕組みが必要だったからだ」と話す。

 プラットフォームの議論には研究者も参加する。米ワトソン研究所でプロセサの研究を担当するIBMフェロー主任研究員のバニー・メイソン副社長は、「顧客と接しているサービス部門が上げてきた課題には常に目を通し、プロセサ開発の参考にする。POWERプロセサをマルチコア化し、処理性能と電力削減を両立させたのが、その一例だ。常に現場と情報を交換している」と説明する。

 IBMが掲げるプラットフォームの将来像に、システムが自律的に稼働し障害を回避する「オートノミック・コンピューティング」がある。ソフトウエア部門のCTOであるアラン・ガネック副社長は、「オートノミックをきちんと実装できるのは、全部門が連携して動けるIBMだけではないか。ホーリスティック(全体的)な考え方がないと実現できない」と優位性を強調する。

 標準化の実現は、買収戦略だけではない。M&A(企業の合併・買収)が通用しないオープンソース・ソフト(OSS)コミュニティや、インターネット技術を中心とした各種標準化団体との関係においても常に“IBM標準”を積極的に提案するなど、自らが有利に進むために手を打っている。

 OSSコミュニティの例でいえば、IBMが社内で使っていたプログラム開発環境の「Eclipse」が、OSSの開発環境として事実上の標準となっている。全世界のLinuxとOSSを担当するスコット・ハンディ副社長は、「競合他社とはOSSを使ったソリューションで勝負する。しかし、OSSの標準化を先導することで当然、自社製ミドルウエアと組み合わせた“ミックスソース”が提案でき、より優位に立てる」(スコット副社長)と戦略を説明する。