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 情報通信システム(Information & Communication System: ICTシステム)に軸足を置いて,社会保険庁関連の資料精読と調査を続けている。その過程で気付いたのは,厚労省・社保庁が第三者から業務の不備を詰問された際の言い訳に情報通信システムを使い始めているという事実である。しかしながら,年間の運営費が500億円とも言われるこの巨大システムの実像,実態はほとんど知られていない。深い霧の向こうにあるという状態なのだ。

 筆者の認識では,現行の情報通信システムを開発・運用しているのは社保庁そのものである。これまでのところ,社保庁とITベンダー2社(NTTデータ,日立製作所)以外に,社保庁の情報通信システムに影響を与える利害関係者は見出せていない。いずれの関係者も,現行システムについて真摯(しんし)な情報開示と弁明が必要だと考えている。なにせ,不正確な保険料の納付データ処理によって,(民主党の試算によると)2兆円もの年金未払いを引き起こしたインフラストラクチャを開発・運用する当事者なのだ。

 一般常識からすると,当事者は社保庁で,ITベンダー2社は社保庁の指示に従っている考えるのが妥当だ。当事者の意志を無視してベンダーが好き勝手にシステムを開発・運用したと言い逃れるのには無理がある。

システムを言い逃れの口実にする動きも

 11月20日午前,民主党の厚生労働部門会議が開催され,その様子をテレビ朝日が放送している「報道ステーション」が伝えていた。画面に映し出されていたのは,会議に呼び出された厚労省の大臣官房企画官の吉間てつを氏だった。

 民主党国会議員の詰問に,吉間氏は次のように答えていた。

 「コンピュータでそうしたものを組むこということは相当なものでございます」
 「今直ちにそうしたことは対応できないということをご理解いただきたい」
 「記録をひとつひとつ見ないと(判別できない)」
 「(5000万件の件で)ギリギリなところで作業をしているので…,(この件はすぐに対応できない)」 

(注)( )内は筆者が受けた印象を書き足したもの

 これらの返答は,民主党国会議員が「(被保険者が)年金受給を申請しなかったことによって,受給できなくなった年金がある」と厚労省・社保庁側を追求した場面で発せられた。宙に浮いた5000万件の記録を名寄せするという『5000万件の年金記録の解明作業』には含まれていない,新たな問題についてのやりとりである。

 質問に対して本来答えるべきは,「現状の説明」と「対応策」である。だが,吉間氏の返答は,表現が曖昧模糊(あいまいもこ)としていて,情報通信システムを言い逃れの口実にしているように映った。

専用プログラムが必要な理由を説明すべきだ

 吉間氏の「コンピュータでそうしたものを組むということは相当なもので…」という発言を,どう理解すればよいのだろうか。

 未申請者の洗い出しには,「膨大な過去のトランザクションから年金受給未申請者を抜き出す。それも過去に遡(さかのぼ)って未申請により受給権が消失した額を特定する」という作業が想定される。

 汎用機の時代でも,ユーティリティを使って,過去のトランザクションから一定の条件にもとづいてデータを抜き出してリストを作成することは容易にできていた。私自身も,かつてIBMや富士通の汎用機を運用管理していた時代に,サードパーティ製のユーティリティー・ソフトウエアを導入して,トランザクションの抜き出しや並べ替えをやっていた経験がある。1990年頃の話である。専用プログラムなど開発させた覚えはない。

 もし,トランザクションから一定の条件で該当データを抜き出すために専用プログラムの作成が必要だというのなら,現行システムの詳細を示しながら説明するべきだ。

 吉間氏が返答の中で「相当なもの」と表現した「そうしたもの」は,該当データを抜き出すための専用プログラムと理解される。それが「相当なもの」というのは,普通に考えれば,開発にかなりの費用と手間がかかるという意味だろう。

 確かに,厚労省・社保庁が「工程表」と呼ぶ5000万件の記録補正作業計画では,民主党が11月20日に指摘した「年金未払い」問題への対応は含まれていない。だが,含まれていなければ,新たに作るか,計画に追加すればよい。さしたる費用は発生しないと思える。

 いったいどんなシステムを社保庁は過去に開発したのだろうか? 吉間氏の返答は,情報通信システムに見識と経験のない人々が開発を指揮し,しかも何らマネジメントされないまま運営されている,ということを明白にする新たな傍証の一つとしか思えない。