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 前回に引き続き,文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の平成19年度の中間まとめ(注1)の第4節「検索エンジンの法制上の課題について」について,検討を加えていきます。

 前回は,中間まとめの第4節において,検察エンジンの著作権上の法的リスクを,現行法の解釈によって回避できるかどうか検討している部分を取り上げました。結論としては,法解釈では検索エンジンのサービス提供者の法的リスクを回避できないことが指摘されています。そこで今回は,立法による法的リスク回避の可能性を検討している部分を解説します。

今後の議論に委ねられた権利制限対象の範囲規定

 著作権法の権利制限規定は,著作物の公正な利用を図るという観点から設けられるものです。例えば,私的使用のための複製に関する著作権法30条もこれに当たります。

 中間まとめでは,検索エンジンについても,権利制限の対象とする合理的な根拠があるとしています。理由は以下の通りです。

(ア)社会のインフラ的な役割を担っている
(イ)検索エンジンは著作物を直接提示,提供するものではなく,通常著作物を広く知らせたい著作権者の利益にもなり,著作物の流通促進に資することで,文化の発展に寄与するものである
(ウ)著作権者から事前に利用許諾を得ることは事実上不可能であることから,権利制限を設ける必要性は高い
(エ)ネット上の著作物については,著作者が検索対象となることを予見,黙示的に許諾している

 これら制限の根拠については,あまり異論のないところかと思います。問題はどのような範囲で権利制限を認めるか(制度設計をどうするのか),著作権利者の利益保護をどのように図るかです。

 まず,権利制限対象の範囲を限定的に規定するのか,包括的に規定するのかという問題があります。中間まとめは,包括的に規定すると「権利者の利益に悪影響を及ぼすおそれのある利用形態まで包含してしまう可能性が高まる」(注2),限定的に規定すると「検索エンジンのサービス形態が法制度によって限定されてしまい,かえって検索エンジンの健全な発展を阻害するおそれがある」と両方の弊害を指摘した上で,今後の検討に委ねています。以下,中間まとめの記述を引用します。

権利制限対象範囲の画定に当たっては,検索エンジンの流通促進機能と権利者の私権との調和が十分に図られるよう,慎重に検討を進めていくことが必要不可欠である。

 そもそも前提として,「検索エンジン」(包括的に規定)や「検索エンジンが行う処理」(限定的に規定)はどのように定義づけることが可能なのか,具体的に決まっていなければ議論は難しいところでしょう。ただ,法制問題小委員会における議論の出発点には,もともと著作権法が日本における検索エンジンサービスの発展を阻害しているのではないかという問題意識があります。そうである以上,技術の健全な発展を阻害しないことを重視するべきで,個人的には包括的な規定を念頭に議論を重ねて欲しいと考えています。

 もちろん,権利制限を認める場合でも,できるかぎり著作権利者の利益は保護されるべきです。しかし,検索エンジンサービスの性質上,個別的な対応は不可能です。このため,技術的回避手段(ロボット検索防止のメタタグ等)による意思表示があった場合に権利制限の対象外とすることが検討されています。技術的な回避手段以外の個別の意思表示,具体的には検索エンジンに対して著作物の利用を停止する,または削除するなどの請求を認めるのかについては,さらに検討を加える必要があるとしています。

 この問題と同じく,権利者保護の観点からはネット上の違法複製物への対応が必要となります。中間まとめでは,違法複製物への対応として,権利制限の対象とするのは本来好ましくないとしつつも,「検索エンジンは,ウェブサイトから自動的に情報を収集するため,違法複製物を蓄積したり,表示したりすることを事前に回避することは,技術的に不可能である」ことから権利制限の対象としています。その上で,事後的に違法複製物の利用停止または削除の措置をとることを義務づけることで,権利者の利益を図ることが考えられる,としています。違法複製物の利用停止または削除の措置については,プロバイダ責任制限法3条の規定も参考にして要件を定めることを考えているようです。

 また,著作者人格権に関する問題のうち,公表権,氏名表示権については権利制限を行う必要性は必ずしも高くない,同一性保持権についても著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」に当たると考えられるとして,立法的な手当は検討しないようです。これは,検索エンジンによって著作者人格権の侵害が生じる場合は実際上少ないと考えられるためです。

ITサービスの進化に法改正だけで対応するのは非現実的

 中間まとめでは,検索エンジンの法的リスクを回避するために,権利制限規定の立法以外に,前回紹介した利用許諾を推定(または擬制)という考え方である「黙示の許諾論」を立法化することによる対応可能性も探っています。ですが,やはり「違法複製物を検索対象としてしまう場合においては,検索エンジンサービス提供者は,法的責任を負うおそれがある」ことから,黙示の許諾論だけでは法的な不安定さは払拭できない,「権利侵害を停止する一定の措置が講じられる限りにおいて,検索エンジンサービス提供者の責任制限が認められるようにすることが必要」であるという指摘がなされています。

 また,プロバイダ責任制限法類似の特別立法による対応可能性も考えられています。メリットとして,「著作権法上の侵害責任のみならず,プライバシー侵害責任等も含め,包括的に責任制限することが可能」となります。ただし,この方法では,刑事免責及び差し止め請求に対する免責がなく,検索エンジンサービスの円滑な事業遂行の観点からは問題が残ることが指摘されています。

 以上の検討を踏まえ,中間まとめは検索エンジンへの対応について,以下のように権利制限に関する立法的な手当を講じる方向で結論づけています。

以上を踏まえれば,著作者の権利との調和と安定的な制度運用に慎重に配慮しつつ,権利制限を講ずることが適切であると結論づけられる。したがって,権利制限の対象範囲のあり方,権利者保護のあり方など残された論点について,早急に結論を得るとともに具体的な立法措置のあり方を明らかにすることが不可欠である。

 検索エンジンに関する法的な手当を行うこと自体は,私自身も賛成です。著作権の問題に限定すれば,立法化は権利制限規定による対応が素直でしょう。

 しかし,このような権利者保護と技術革新の調和の問題は,検索エンジンのみに生じる問題ではありません。法改正ですべて対応するというのは,新しい技術やサービスが相次いで登場するITの進化スピードを考えると非現実的と言わざるを得ません。米国におけるフェアユース規定類似の規定を付け加えるなど,裁判所による法解釈を柔軟にするような方策もあわせて検討されるべきではないかと考えます。

 また,中間まとめでも触れられていますが,ITサービスに関わる法的権利・利益は,著作権だけでなく,プライバシー,パブリッシティ,名誉毀損と多岐にわたっています。このような問題を包括的に調整する法律として,本連載の「平成19年度著作権法改正の動向(1)」で取り上げたデジタルコンテンツ法制の問題を検討すべきではないでしょうか。

 次回は,中間まとめの残りの問題,ライセンシーの保護,間接侵害の問題を取り上げます。

(注1)「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集の実施について。中間まとめはこのページから参照できる
(注2)「権利者の利益に悪影響を及ぼすおそれのある利用形態」とは,特に検索結果表示用データの作成・蓄積に関わるもの,例えばキャッシュを表示させるような利用形態を指しています。これは,Webサイト情報の収集・格納や検索用インデックス作成が公衆の目に触れないもので,権利者への影響が限定的であるのと比較すると影響が大きいということです


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。