PR

 「我々が立ち上げたいサービスは,携帯電話とは全く異なる」──。無線通信でADSL並みの実効速度を実現する「ワイヤレス・ブロードバンド」の事業化を目指す各社の社長は,異口同音にこう語る。ワイヤレスブロードバンド企画の田中孝司・代表取締役社長は「結果として携帯電話と競合することはあるかもしれない。だが,新しい市場を作ることこそが,事業免許を申請した狙いだ」という。

 キーワードは「オープン化」だ。各社の経営陣に聞くと,通信事業者は端末メーカー,サービス事業者とともに新たなエコシステムを構築しようとしているという。そこには,オープン化によって端末とサービスの多様化を進め,何とか新市場を作ろうと模索している姿勢がうかがえる。

3G,PHS陣営が入り乱れ2枠を争う

 現在,2.5GHz帯の周波数の割り当てを巡り,通信事業者がつばぜり合いを繰り広げている。この周波数帯はワイヤレス・ブロードバンドで使われる予定で,総務省は10月12日まで事業者を募集。それに対し,アッカ・ワイヤレス,ウィルコム,オープンワイヤレスネットワーク,ワイヤレスブロードバンド企画の4社が事業免許の交付を申請した(図1)。

図1●ワイヤレス・ブロードバンド商用化を狙い4社が2.5GHz帯割り当てを求めている
図1●ワイヤレス・ブロードバンド商用化を狙い4社が2.5GHz帯割り当てを求めている
携帯電話事業者は2.5GHz帯を使うワイヤレス・ブロードバンド事業者に対して3分の1以上の出資ができないため,連合体を形成している。図では金融機関や純粋な投資ファンドなどは省略した。
[画像のクリックで拡大表示]

 申請者には見慣れない名前の企業がある。これは,総務省が既存の第3世代携帯電話(3G)事業者とそのグループ企業の参入を制限したことに対し,3G事業者がとった苦肉の策。それぞれの背後には3G事業者の姿がある。アッカ・ワイヤレスはNTTドコモとアッカ・ネットワークス,ワイヤレスブロードバンド企画はKDDI,オープンワイヤレスネットワークはソフトバンクとイー・アクセスの陣営といえる。

 免許を申請した4社のうち,ウィルコムは現行PHSをベースに高速化した通信規格である「次世代PHS」を採用。ほか3社は「モバイルWiMAX」を採用する。ともに規格上の伝送速度は20Mビット/秒を超える。屋外でも家庭やオフィスのブロードバンドに近い実効速度を期待できる。

 ただし,モバイル事業を展開するための席は二つしかない。総務省と電波監理審議会 は,2007年末にも申請した4社から最大2社を周波数の割り当て先に選定する。このスケジュールからすると,サービスの開始時期は2009年前半ころになりそう(図2)。事業者がネットワークを構築するために少なくとも1年程度はかかるからだ。例えば,事業計画を公表しているオープンワイヤレスネットワークとアッカ・ワイヤレスは2009年3月に開始するとしている(表1)。

図2●ワイヤレス・ブロードバンドのサービス開始は2009年ころ
図2●ワイヤレス・ブロードバンドのサービス開始は2009年ころ
総務省や電波監理審議会による事業者の選定は年内に完了する見込み。
[画像のクリックで拡大表示]

表1●ワイヤレス・ブロードバンドの事業化を目指す各社の計画

社名 ウィルコム オープンワイヤレスネットワーク ワイヤレスブロードバンド企画 アッカ・ワイヤレス
採用規格 次世代PHS モバイルWiMAX
サービス
開始時期
試験サービス:2009年4月
商用サービス:2009年10月
2009年3月 試験サービス:2009年2月
商用サービス:2009年夏
2009年3月
計画する
加入者数
約390万加入 400~1700万加入 約560万加入 2009年:25万加入
2013年:500万加入
エリア展開計画
(人口カバー率)
2011年度末:56.6%
2012年度末:90.6%
2008年度末:16.7%
2009年度末:49.9%
2011年度末:78.5%
2014年度末:91.6%
2012年度末:90%超 2009年末:約30%
2010年末:約50%
2011年末:約50%(総合通信局の
管轄区域ごとで)
2012年末:約70%
料金 ARPUで4000円以下 1000円台~5000円台 非公表 4000円以下の定額制
設備投資額 2015年度末までに
累計約2000億円
2014年度末までに
累計約2500億円
2013年度までに
累計1440億円
累計2000億円
収入 非公表 2014年度で1089億円 2013年度で1440億円 2009年:60億円
2013年:1500億円

料金は月額3000~5000円が目安

 では,料金や実効速度が具体的にどのようになるのか。各社の状況を見てみよう。

 ユーザーが支払う月額料金は,モバイルWiMAXを採用する各社と次世代PHSを採用するウィルコムで若干の差が出そうだ。

 モバイルWiMAXは低料金志向が強い。オープンワイヤレスネットワークは「月額3000~5000円が目安になる」(深田浩仁・代表取締役社長兼COO)とする。アッカ・ワイヤレスは金額は明言しないものの,「現在の3GやPHSを使ったデータ通信カードのサービスよりも,2~3割安くできると考えている」(木村正治・代表取締役社長)という。ワイヤレスブロードバンド企画は料金について沈黙を守っているが,事業のコンセプトは上記2社と似ており,大きな差が出るとは考えにくい。

 一方,ウィルコムはモバイルWiMAXをやや上回る,現行PHS並みの5000~1万円程度にすると見られる。次世代PHSを現行サービスの発展版と位置付けているからだ。高速性を特徴とする次世代PHSの料金を,現行PHSより大幅に安くするとは考えにくい。

ベストエフォート型で料金を抑える

 モバイルWiMAXサービスで料金を3000~5000円程度に抑えられるのは,ネットワークをベストエフォート型にするからだ。

 携帯電話やPHSは,移動しながら通話できることを目指したサービスである。音声は1秒でも途切れると通話に支障が出るので,途切れさせないための仕組みは不可欠。このため「基地局や付帯設備はどうしても高額になる」(ワイヤレスブロードバンド企画の田中社長)。その結果,ユーザー料金を下げにくい構造になる。

 これに対しモバイルWiMAX陣営は,ベストエフォート型のネットワークをデータ通信用として提供する。品質をある程度割り切ることで低料金を目指すわけだ。データ通信なら,1~2秒通信が途切れてもあまり支障がなく,ベストエフォートがなじみやすい。「リアルタイムの双方向通信にはあまり向かない。VoIP(voice over IP)を使えば音声通信できるが,その品質は保証できない」(ワイヤレスブロードバンド企画の田中社長)。

 次世代PHSは,現行PHSの上位互換サービスであるため,必然的に音声通信を視野に入れたネットワーク設計になる。モバイルWiMAXと携帯電話の中間的な品質,料金を狙う形になると予想できる。

実効速度は最低1Mビット/秒で設計

 実効速度はどの程度か。モバイルWiMAXの場合,規格上はセクター当たり10Mビット/秒以上のスループットを出せる。ただし,実際に通信する場合は同時に通信するユーザーで帯域を分け合う。ユーザー一人当たりの実効速度がどの程度になるかは,通信事業者がどのような容量を想定してネットワークを作るかによって決まってくる。

 アッカ・ワイヤレスは,「ユーザー当たり数百k~1Mビット/秒を下回らないようにネットワークを設計する」(高津智仁・取締役)という。つまり,同時接続するユーザーがある程度増えても1Mビット/秒程度の実効速度が確保され,ユーザーが少ない場合は10Mビット/秒程度の高速通信が可能となる。事業計画が似ているオープンワイヤレスネットワーク,ワイヤレスブロードバンド企画も,似たようなネットワーク設計になるだろう。

 次世代PHSについては,ウィルコムはユーザー当たりの実効速度を明らかにしていない。ただ,現行PHSのコンセプトを引き継ぐネットワークであることを考えると,モバイルWiMAXよりピーク速度は遅いが,ユーザーが増えても速度が落ちにくいサービスになりそうだ。