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いよいよ12月に,日本における2.5GHz帯の割り当て事業者が決定する。少なくとも1社はモバイルWiMAXを採用した事業者となるが,国際展開を売りにするこの規格の世界での普及状況はいかなるものか。米国では,スプリント・ネクステルがモバイルWiMAX網の構築を開始している(関連記事)。ただし,11月のクリアワイヤとの提携が白紙になるなど,計画の遅延は免れられない状況だ(関連記事)。欧州では,2008年ころから2.5GHz帯の周波数オークションを開始する見込み(関連記事)。現時点では「技術中立」としていて,採用する通信規格などは決まっていない。では,アジアはどうか。今回は,韓国,台湾,中国の3地域の現状を解説する。

(日経コミュニケーション)

 モバイルWiMAXを巡っては,世界各国で周波数オークションや事業者への割り当てなどの動きがある。

 日本では2007年10月,2.5GHz帯事業免許の2枠に対して4社からの申請があった。モバイルWiMAX方式での参入を目指すのが,アッカ・ワイヤレス,ワイヤレスブロードバンド企画,オープンワイヤレスネットワークといった事業企画会社3社である。これらに加え,次世代PHSサービスへの参入を目指すウィルコムも免許申請を行っている。

 一方,米国では,2004年6月に米連邦通信委員会(FCC)が帯域規制を修正し,2.5GHz帯でBRS(broadband radio service)免許を交付。さらにFCCは2006年9月,モバイルWiMAXなどのワイヤレス・ブロードバンド技術を利用できる技術中立な免許「AWS(Advanced Wireless Service)免許」を競売方式で交付した。ただし,2007年7月にモバイルWiMAX事業を手掛ける有力2事業者が業務提携を解消するなど,モバイルWiMAX網の展開に遅れが見え始めている(関連記事)。

韓国:WiBroサービス開始から約1年

 韓国では,世界的に見ても早い時期(2005年3月)に,2.3GHz帯免許を固定通信1位のKTと携帯電話1位のSKテレコムの2社に交付した(ブロードバンド事業者のハナロ通信にも付与したが,その後同社は免許を返上した)。なお,この免許は,モバイルWiMAXをベースに韓国が独自開発した技術「WiBro」を対象に付与したものである。これによりKT及びSKテレコムは,2006年6月から世界に先駆けてWiBro(モバイルWiMAX)サービスを提供している。

 WiBroは当初,第3世代携帯電話(3G)技術であるHSDPAとの競合で伸び悩んだ。しかし2007年4月以降,KTがWiBroサービスエリアをソウル全域に拡大。さらに対応端末が多く発売されたことで,加入者数が増加している。2007年9月時点で,WiBroサービス加入者は約7万に達している(図1)。主に20代から30代の学生や会社員が利用している。

図1●韓国におけるWiBroとHSDPAの加入者シェア動向
図1●韓国におけるWiBroとHSDPAの加入者シェア動向
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 WiBro市場は今後も拡大傾向が続くと考えられているが,料金が高額であることやネットワークが不安定であるなど,様々な課題が残っている。

台湾:モバイルWiMAXサービスに向け免許交付

 台湾では2007年7月に,固定・モバイルを問わないWiMAX免許を交付した。WiMAX免許は,2.5GHzから2.6GHzを利用したWiMAXサービスを認めるものであり,台湾北部で3件,台湾南部で3件の計6件の免許が交付された。

 この6件の免許に対して合計で13社が申請して,比較審査及びオークションで6社が決定した。申請した13社の中には,中華電信,台湾モバイル,Far EasToneといった大手携帯電話事業者3社の名もあった。だが,比較審査で中華電信と台湾モバイルは落選した。全体として,新興事業者を優先した結果となった。

 免許を落札した事業者は,3年以内にサービスを開始することが条件とされている。台湾では,2010年から本格的なWiMAXサービスが開始される見込みである。また,免許を獲得した各社が行う実証実験ではモバイルWiMAXを利用したものであることから,固定よりもモバイルWiMAXの展開が中心になると考えられる。

中国:モバイルWiMAX導入に慎重

 中国では,国産の3G技術であるTD-SCDMAと競合する懸念があることから,モバイルWiMAX用の周波数帯の割り当てはすぐには行われない見込みである。また,モバイルWiMAXに適しているとされる2.3GHz帯と2.5GHz帯は,現時点でそれぞれTD-SCDMAとテレビ放送用に割り当てられている。そのため,今後もモバイルWiMAXに割り当られる可能性は極めて低い。

 なお,携帯電話大手の中国移動は,2008年の北京オリンピック期間中に青島でモバイルWiMAXのトライアルを実施すると一部で報道されている。これは,中国政府がTD-SCDMAを強く推進する方針と矛盾するものではない。中国の移動通信事業者やベンダーがモバイルWiMAXを展開できる技術を持っていることを,世界各国に対してアピールすることが主目的と考えられているからだ。

アジアでの成功がモバイルWiMAXの命運を左右する

 英ジュニパー・リサーチ社によると,世界のWiMAX(固定・モバイル)市場は2009年までに30億ドル~50億ドルになり,モバイルWiMAXの加入者数は2012年に2130万に達する。モバイルWiMAXに対する期待が高まる中,アジア各国も同技術の導入に向けて動き始めた。

 ここでポイントとなるのが,国によりモバイルWiMAX導入のやり方が異なることだ。例えば米国では,政府の関与を極力無くしている。参入希望者に向けて競売方式による付与とすることで,モバイルWiMAXの発展を市場に委ねているからだ。一方,アジアにおけるモバイルWiMAXの展開は,政府の関与が大きいものとなっている。日本においてもその例外ではない。

 市場主導で進めてきた米国では,スプリント・ネクステルとクリアワイヤの提携解消などでモバイルWiMAXが減速しそうな状況にある。政府の関与が大きいアジア諸国でモバイルWiMAXがいかに発展するかが,モバイルWiMAXの今後を大きく左右しそうだ。

中村 邦明
1998年オハイオ・ウェズリアン大学卒,2000年早稲田大学大学院修了。2007年早稲田大学大学院国際情報科博士課程満期卒。国際通信経済研究所勤務を経て2006年より現職。世界におけるワイヤレス通信分野全般の調査研究,コンサルティング業務に従事。なお,移動通信関連調査研究の一環として海外調査を多数経験する。『InfoCom移動・パーソナル通信ニューズレターT&S』(情総研・共著),『電気通信』(電気通信協会)などへの執筆多数。


  • この記事は情報通信総合研究所が発行するニュース・レター「Infocom移動・パーソナル通信ニューズレター」の記事を抜粋したものです。
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