PR

 前回に引き続き,文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の平成19年度の中間まとめ(注1)について,検討を加えていきます。今回は,中間まとめ第5節の「ライセンシーの保護等の在り方について」,第6節「いわゆる「間接侵害」に係る課題等について」を取り上げます。

ライセンサーが破産するとライセンス契約解除もあり得る

 「ライセンシーの保護等の在り方」と言われても,通常はあまりピンとこないかも知れません。ただし,ライセンス契約自体はソフトウエアに関する契約では一般的であり,IT業界ではなじみのある方も多いでしょう。

 ライセンス契約はライセンサー(ライセンスを与える側)とライセンシー(ライセンスを受ける側)の間の契約です。「ライセンシーの保護」が特に問題となるのは,ライセンサーが破産した場合や著作権が第三者に譲渡された場合です。ライセンサーが破産すると,破産管財人がライセンサーの財産を管理することになります。また,ライセンス契約に関する権利関係も破産管財人が管理することになります。破産法ではライセンサーが破産した場合,破産管財人の判断によりライセンス契約を解除できることになっています。

 中間まとめでも関係者の意見として取り上げられていますが,エレクトロニクス・IT産業にかかわるプログラムに関しては,ライセンシー保護の要請が強いようです(書籍出版産業,映像産業,音楽産業,コンテンツ配信産業からは,積極的な保護を求める意見は出ていないようです)。以下,該当個所を引用します。

コンピュータ・プログラムの業界では,ライセンシーを保護する制度を必要とする意見が比較的多かった。
とりわけ,エレクトロニクス・IT産業では,非独占的利用許諾契約(サブライセンスを含む。)に基づく利用の継続を担保するため,ライセンシーを保護する制度が必要である(独占性を保護する必要はない)という意見が多かった。
ソフトウェア(パッケージ)産業でも,現実にトラブルが生じた例はあまりないが常にリスクを感じており,ライセンシーを保護する制度は必要であるという意見であった。

 ライセンシー保護の方法として,破産法の条文中に,当該権利(この場合は著作権)について登記,登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えている場合には解除ができないという条文があります。しかし,著作権のライセンスは特許等と異なり,現状では登録制度がありません。

 このため,著作権分科会法制問題小委員会では,著作権ライセンスについても登録制度をつくる方向で議論が進んでいます。中間まとめでも,新たな登録制度を創設する方向で法改正を検討すべきとしています。もちろん,具体的な制度設計(どのような要件で登録を認めるのか,ライセンス契約内容の公示が必要か等)についてはいろいろ問題があります。それについては,法的に細かい話になりますので,本稿では詳細は省略します。

 ともあれ,現行のライセンス契約というのは,特殊な場面になると結構もろいものです。とりあえず,そのことをご理解ください。

間接侵害の要件は「慎重に検討を進める」

 「間接侵害」と言われても,何のことか分かりにくいと思います。そこで,間接侵害の一つである,いわゆる「カラオケ法理」にもとづいて,以下説明します。

 カラオケ法理については,本連載でも「イメージシティ事件判決」の解説(注2)の中で取り上げたことがあります。カラオケ法理とは,物理的な著作物等の利用行為を行っていなくとも,規範的な見地から利用主体を判断するという考え方です。具体的には,(1)著作物の利用についての管理・支配の帰属,(2)著作物の利用による利益の帰属,の2点を総合的に判断したうえで,著作権侵害の主体を決めるという考え方です。

 カラオケ法理の基本的な考え方には,判例が積み重ねられてきています。しかし,その判断基準は必ずしも一致している状況ではありません。また,判例はあくまで判例であり,個別具体的な事案の解決の妥当性を優先するため,判断基準としては統一されにくい性質があるように思います。結果として,判断基準にぶれがあり,どのような著作物の利用行為が許されて,あるいは許されないのかが分からないということになります。

 イメージシティ事件判決の解説の中でも指摘しましたが,カラオケ法理をデジタルやネットワークの世界に安易に拡張適用することはITサービスの発展を阻害する可能性があります。違法か適法かの判断基準にぶれがあり,どのようなサービスが違法とされるのかが分からないということになると,新たな技術開発の阻害につながるわけです。

 中間まとめは,「カラオケ法理の過度の拡張適用は,差止請求可能な範囲を広すぎるものとし,予測可能性の欠如を招くことから,立法的対応が必要」と指摘しています。この点については,筆者も賛成します。

 問題は,どのような要件(基準)を設定するかです。権利侵害を助長するような行為を広く補足しようとして,抽象的な要件を立てると,結局,裁判に訴えなければ違法かどうか分からない,予測可能性が低いということになりかねません。そうなると,あえて立法化する意味がなくなってしまいます。

 いかなる場合に間接侵害にあたるかという要件については,様々な意見が出て一定の結論には至らなかったようです。中間まとめでは一例として,以下のような要件が示されています。

他者に行為をさせることによるものも侵害に当たるとした上で,その一例として,専ら侵害の用に供される物等の提供等を行うことを例示する。なお,このような,「専ら侵害の用に供される物等の提供その他の行為により他者に(侵害)行為をさせることにより侵害をする者」とは,言い換えると,その行為により,他者の侵害行為をそのコントロール下に置いており,(その行為をやめること等により)この他者の侵害行為を除去し,ないし,生じさせないことができる立場にある者のことであるといえる。

 ここでは「専(もっぱ)ら侵害の用に供される」となっていますので,「管理支配性及び侵害発生の蓋然性(及びその旨の認識)を総合して判断する」というような意見に比べると,その侵害成立の範囲は狭く考えられているようです。他方,この範囲に限定してしまって良いのかが悩みどころでしょう。

 中間まとめでも,引き続き慎重な検討を進めるとしています。新規のITサービス等の開発を阻害しないかという事情を加味して,要件を検討してもらいたいと思います。

 以上,文化審議会の著作権分科会法制問題小委員会の中間まとめを,5回にわたって紹介してきました。中間まとめは著作権法改正の方向性を示すものであり,まだ法律案にもなっていませんから,現時点では直接皆さんの業務に関わる問題ではありません。しかし,改正の議論がなされている事項というのは,新しいITサービスの開発・運営を行う上では意識しておかなければならない事項ではないでしょうか。

(注1)「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集の実施について。中間まとめはこのページから参照できる
(注2)詳しくはイメージシティ事件判決(3)を参照


→「知っておきたいIT法律入門」の記事一覧へ

■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。