PR

3 調査他の実務

 調査委員会の実務担当者が最初に直面する困難は、各委員のスケジュール調整です。社会的な信用度が高い先生たちですから、多忙でなかなか時間を取れません。委員会メンバー全員を同じ時間に集めようとすれば、スケジューリングできたとしても三ヶ月先、四ヶ月先になってしまうことすらあります。委員の方はこの調査委員会を優先してくださることが多いのですが、それでもなかなか全員が一同に会することは難しいのです。となれば、出席できなかった先生には事務局がきちんとフォローする形で、どんどんスケジュールを入れていかないと最後までたどり着けません。

 それから、前にも述べたように社内で調査能力のある人材を確保しなければいけません。委員会の先生方に実務作業をお願いするのは無理があります。実際の調査は社内でやらなければなりませんから、それなりに能力のある人を確保しておかないと絶対にプロジェクトは進みません。

 また、調査のレベルを上げるためには専門家の活用を視野に入れておくべきです。SME(Subject Matter Expert)というのですが、ある分野の問題に関して調査委員会からさらに第三者の専門家に意見を求めることがあります。例えば製品の安全性に関する事件が起きたとしましょう。調査委員会ではそういう事態を引き起こした組織的な問題を追っていき、安全性そのものに本当に問題があったかどうかの判断は、その分野の権威である大学教授にお願いするといったケースです。弁護士でも委員会のメンバーの中にその特定の分野を専門とする方が必ずしもいるわけではありませんので、その領域に強い弁護士にその部分だけ委託するというやり方をすることもあります。

 委員会の運営もエネルギーがかかります。委員の先生からはよい指摘を得られることも多い半面、たまに的のはずれたことも言われるので、それらにどこまで対応するかを考えなくてはなりません。「これについて調べて下さい」と頼まれたものの、それをやるに1年以上かかるような場合もままあります。こうした事態を避けるには委員会の目的とゴールを明確にして、そこからずれたようなことには上手に対応していくことが望まれるでしょう。

 なお、最近話題になった会社ではどのような方を委員長に招いているかをみていくと、検事OBが多いことがわかります。それ以外のメンバーとしては大学教授、弁護士、コンサルタント、公認会計士などです(別表参照)。さすがにここに出ておられる立派な方たちは、おかしなことを言う人はいません。しかし、他の事例なども含めて、私の実感を申し上げると、もう少し会社組織で実務経験がある人を入れておかないと、的外れな結論を導く恐れがあると思います。

 実際の調査活動で配慮すべき点として、社員の聞き取り調査があります。聞き取りを行うのは本当に必用な人たちだけにとどめるべきです。なぜなら、誰かが調査に呼ばれたとわかると職場に余計な波紋が広がるからです。「○○さんが調査に呼び出されたそうだけど、やっぱり何か問題を起こしたんじゃないか」とあらぬ噂が社内に流れてしまうわけです。そうした事態を避けるには、コンピューターフォレンジックの専門家を活用して必用な情報を集めるやり方などがあります。

 そして調査で原因究明がなされてくると、次に当面の対処策、再発防止策の策定へと作業を進めていきます。このあたりの段階にくると、調査報告書の骨格もだんだん出来上がってきます。そうしたら調査で判明した責任の所在に基づいて、誰に対してどのような懲罰を行うのかを別途決定していかなくてはいけません。この調査報告書を書く前の段階でなぜ懲罰を決める必用があるのかといえば、調査報告書を対外的に発表する際に、あわせて懲罰についての発表も求められるからです。

 社長は責任をどう取るのか。辞任するのか、減給○ヶ月にするのか。事件を起こした当事者はどう処分するのか。懲戒解雇にするのか、諭旨解雇になるのか――。その決定方法は会社によっていろいろです。コンプライアンス委員会でコントロールしている企業もありますし、人事部門が懲罰委員会を設置するところもあります。いずれにせよ、懲罰の決定を進めることも、調査委員会の実務担当者は考えておかなければなりません。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。


秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業