PR

 「弱者や顧客を保護せよ」。こうした意見がすべてに優先し、その結果として、全体の仕組みや制度を歪め、狂わせてしまう。これが「日本の病」である。弱者や顧客を保護するな、というつもりは毛頭無いが、弱者や顧客の保護と全体の仕組みのトレードオフを考えなければならない。日本の病の典型が、2005年に起きた「カード悪用騒動」であった。以下は2005年6月29日付で、日経ビジネスExpress(現・日経ビジネスオンライン)に 寄稿した「『媚びを売らず、啓蒙を』・カード悪用問題に見る『日本の病』」の再掲である。

            ◇      ◇      ◇

 銀行キャッシュカードの偽造・盗難問題に続いて、クレジットカードの安全性を巡る騒動が起きている。そこで本欄で連載していた一連のコラムの題名を三度改め、「カード悪用問題に見る『日本の病』」とする。クレジットでもキャッシュカードでも、全く同じ病気が見られるからだ。

 米国のカード情報処理会社で起きた、カード利用者の個人情報漏洩を巡って、早速、「日本の病」の症状が出ている。「利用者保護」だけを唱えて利用者に媚びを売る動きをした結果、利用者保護につながらず問題は拡大する、といういつもの話である。

 実際、ここから先、筆者が書こうとしている話は、銀行キャッシュカード悪用問題で書いたことと同一である。似たような話を何度も読まされては、読者は迷惑かもしれない。そこで筆者が言いたいことを冒頭で簡単に述べるので、ぜひそこだけは読んでいただきたい。

・テクノロジーがもたらす利便性とリスクは表裏一体の関係である。
・テクノロジーを提供する側がリスク回避の努力をするのは当然だが、完全にリスクを除去することはできない。
・ 従って、テクノロジーの利用者が自分自身でリスク対策を講じる必要がある。

 言いたいことはこれだけである。今回の事例で言えば、クレジットカード会社やカード関連の情報処理会社は、利用者の個人情報を守る努力をしなければならないが、完璧な防御は不可能であるし、カード発行側の過度な防御策はカードを不便にしてしまう。ゆえに、カードの利用者自身が安全対策を講じる必要がある。

利用者への警告は票にならず

 ここから先、政治家や監督官庁、マスメディアを俎上に載せ、「いかに利用者への啓蒙がなされていないか」について延々と書く。多忙だが関心のある方は週末の時間がある時に読んでいただければ幸いである。

 本来、こうした事件が起きた時に政治家や監督官庁やマスメディアが真っ先にすべきは、事件の深刻さや影響度合いを正確かつ冷静に伝え、「完璧ではないが、こうすれば被害の拡大を防げます」と利用者に呼びかけることであろう。しかし被害の拡大を本気で防ごうとすると、利用者に負担を強いる呼びかけになるため、政治家をはじめ関係者はそうした発言をせず、もっぱら関連する企業を責め立てる。

 カード会社の監督官庁である経済産業省の中川昭一大臣は6月23日、米マスターカード・インターナショナルとビザ・インターナショナルの日本代表を呼び、文書を手渡した。23日付日本経済新聞によれば、「利用者への適切な情報提供などを求め」「利用者保護の徹底を要請」「再発防止策を経産省に報告するよう求める」という。さらに国内カード会社に、監視体制の強化や情報保安体制の再点検を要請する。

 監督官庁として、こうした姿勢を見せておかないと「経産省は何をしていた」とマスメディアから叩かれる、と考えているのであろう。筆者はカード会社に要請をするなとは言わないが、中川大臣には「利用者の方々、カードの安全は自分で守ることも必要です。しっかり管理すれば、これまで同様、カードを使っていただいて大丈夫です」と言ってほしかった。ついでに書くと、偽造・盗難キャッシュカードについて、自民党や金融庁は銀行に安全対策を強いるだけではなく、「預金者はキャッシュカードをしっかり管理してほしい」と言うのが筋であった。しかし、こんなことを言っても「票にはならない」そうである。