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日経コンピュータ 編集長
桔梗原富夫
日経コンピュータ 編集長 桔梗原富夫

 2008年のIT市場はどう動くか。日本経済の足もとの減速感が指摘される中で,IT投資についても慎重な姿勢が強まってくるだろう。すでに予兆はある。日経コンピュータが07年9月に上場企業を中心とする有力企業に調査したところ,これまでIT投資を牽引してきた金融が08年度は11%減になるという結果が出ている。

 経営とITの融合が進み,企業競争力を高めるためにITは不可欠である,という認識は広がりつつあるものの,IT投資についても投資効果をより厳しく見るようになる。さらに,CSR(企業の社会的責任)や環境経営など公益志向が強まるだろう。こうしたなかで,08年のキーワードとして「仮想化」「内部統制」「グリーンIT」を挙げたい。

仮想化で運用コストを削減し,攻めの投資に回す

 日経コンピュータでは,12月24日号の特集で,主要ITベンダー19社(メーカー7社,システム・インテグレータ9社,ソフト・ベンダー3社)のトップに2008年の展望を聞いた。その結果,08年のキーワードとして,実に14人のトップが仮想化を挙げた。ちなみに2位はグリーンITで,7人が挙げている。

 仮想化は決して新しい技術ではない。しかし,サーバーの仮想化について言うと,従来は高価なエンタープライズ・サーバーでしか実現できなかった。それがハードの劇的な性能向上で安価なサーバーでも利用できるようになった。もちろんソフトの進化も大きい。ストレージの仮想化技術も進んでいる。物理的なストレージの種類,配置,容量などにかかわらず,ユーザーは必要に応じて必要な容量のストレージを利用できるようになった。

 サーバーやストレージを仮想化技術によって統合すれば,運用管理の負荷やコストを削減できる。日経コンピュータが上場企業を中心とする有力企業に調査したところ,2006年度のIT予算のうち運用・保守が占める割合は63%だった。逆に新規システムの構築に充てられた予算は37%にすぎない(164社の平均)。

 仮想化によって,運用コストを削減できれば,それだけ攻めのIT投資が可能になる。SOA(サービス指向アーキテクチャ)やWeb2.0など新しい技術を取り入れた次世代のアプリケーションを構築できるようになる。SOAはすでに実装のフェーズに入っているが,08年には大規模な事例も出てきそうだ。

守りの内部統制を,企業変革のドライバーに変える

 08年4月以降に始まる事業年度から,いよいよ日本版SOX法(J-SOX)が適用される。07年は財務関連の不正のみならず,食品会社の賞味期限改ざんや産地偽装,電力会社のデータ改ざん,保険業界の保険金不払い問題など数々の不祥事が噴出した。内部統制の強化は企業の大小を問わず,さらに進むだろう。ここでいう内部統制は,会計統制以外に,コンプライアンス(法令順守)やリスク・マネジメント,ITガバナンスなども含んでいる。

 内部統制の整備を業務プロセスの変革に結びつける動きも08年は強まる。すでにベンダーを中心に新たな動きも出てきた。07年11月に,コンサルティング会社やシステム・インテグレータなど日本版SOX法への対応を支援する事業が中心に,非営利組織「After J-SOX 研究会」が発足したのだ。研究会の目的は,J-SOX対応以降の経営改革活動の重要性や有用性を改めて提唱することで,日本企業の国際競争力の向上に寄与する,としている。J-SOXの本来の精神は,自主的に内部を統制し,企業改革を進めていくことにある。現在は対応するだけで手一杯で余裕がないが,攻めに生かす取り組みが08年には始まるだろう。

 リスク・マネジメントの観点ではBCP(事業継続計画)もより重要性も増す。07年は大規模なシステム障害が頻発した。情報システムが止まるとビジネスも止まる。その怖さを改めて露呈した。システム同士がつながり連携していくなかで,すべてのケースをテストするのは困難であり,もはやBCPを不可欠である。

政府がグリーンITを推進,ベンダーはIT機器の省電力競う

 08年は,京都議定書で定められた第一約束期間が始まる年でもある。日本は,08年から12年までの5年間における温室効果ガスの平均排出量を,1990年の排出量に比べ6%削減するという目標が割り当てられている。企業の環境対策は今後,CO2削減の具体的な数値目標を掲げるなど,一段と強化される可能性が高い。

 こうしたなか,経済産業省はIT機器全体の省エネを実現するための技術開発に向け,「グリーンITプロジェクト」を立ち上げ,08年度に48億円を投入したい考えだ。また,経産省とIT関連分野の業界5団体などは07年12月,環境負荷の低減に貢献する電子・情報技術の開発や普及を推進する「グリーンITイニシアティブ」を立ち上げた。

 サーバー・メーカーも,サーバーやデータセンター設備の省電力化に向けた取り組みを開始している。例えば,日本IBMの「Project Big Green」,NECの「REAL IT COOL PROJECT」,日立製作所の「Harmonious Greenプラン」などだ。グリーンITへの取り組みは,現状ではベンダー主導だが,今後はユーザーも積極的な対応を迫られることになる。

IT業界はグローバル化とM&Aが加速する年に

 IT業界の動きとしては,グローバル・ソーシングとM&A(企業の買収・合併)が加速する年になるだろう。情報システムの構築や運用を効率化する上で,業務の一部あるいは全体を海外企業に委託する動きが加速している。現時点で最も活発なのは,国内のITベンダーが中国やインドの企業にソフト開発業務を委託するオフショア開発だが,ITを活用した経理業務や総務業務などを依託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)も盛んになるだろう。一方,国内大手ITベンダーの海外展開の動きも強まっている。中国やインドを中心に現地のベンダーを買収し,日系企業の進出時にシステムの構築・運用を支援する。

日経コンピュータ
ITに携わるITプロフェッショナルやITを経営に活かす人のための総合情報誌。毎月1日・15日発行

 海外企業の攻勢が強まるなかで,システム・インテグレータのM&Aも活発になってきた。07年12月に,TISとインテックが経営統合したのは象徴的な動きである。両社の売上高を合わせると3000億円規模になる。08年4月には,キヤノンITソリューションズも誕生する。これは,キヤノンマーケティングジャパンがアルゴ21を子会社化し,グループのキヤノンシステムソリューションズと合併させて設立するもの。これまでも大手が中小のシステム・インテグレータを買収することはあったが,大手同士の経営統合がついに始まった。金融のIT投資抑制も,IT業界の再編を助長することになるだろう。