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 NTT東西はこれまでのフレッツ・サービスと異なり,NGNのサービス仕様や名称,料金体系などを東西で一つにそろえる予定だ。当初の提供エリアはNTT西日本の方が狭いものの,2010年までのNGNのサービス・エリアの拡大計画はNTT東西で同じ。これだけを見ると表向きは,NTT東西のNGNの取り組み姿勢が一致しているように思える。

 しかし,実態は少し違う。「『今のタイミングでNGNを展開したくない』というのがNTT西日本の本音だ」──。そんな声がNTTグループ内から漏れてくる。このままでは,NGNのエリア展開や新サービスの投入ペースで,東西に差が付いてしまいかねない。

違い過ぎる東西の事業環境と設備状況

 その背景にあるのは,NTT東西を取り巻く状況の違いだ。具体的には,(1)事業環境,(2)競合他社の動き,(3)フレッツ網の数など現行ネットワークの設備──である(表1)。

表1●NTT東西で大きく異なる状況
(1)事業環境,(2)競合他社の動き,(3)現行ネットワークの設備──などが違う。
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表1●NTT東西で大きく異なる状況

 事業環境では,管轄エリアの広さや大都市の分布などで違いがある。NTT西日本の管轄は30都府県と広い。大都市は分散し,離島が多いというマーケット環境を持つ。一方でNTT東日本の管轄エリアは17都道県で,首都圏という大消費地を抱えている。

 その上,競合事業者との競争は西日本エリアの方が激しい。関西圏のケイ・オプティコムを筆頭に,東海地方や九州などの主要都市圏では電力系通信事業者が積極的にFTTHサービスを展開している。東日本は,CATV事業者を除くと,東京電力のFTTH事業を買収したKDDIくらいしかFTTHで大きな競争相手がいない。

 最も深刻な違いは,NTT東西それぞれが抱える物理的なIP網の数だ。NTT西日本は,(1)フレッツ・ISDNとフレッツ・ADSL用,(2)Bフレッツ用,(3)「フレッツ・光プレミアム」用──と三つある。NTT東日本には,「フレッツ・ISDN」,「フレッツ・ADSL」,「Bフレッツ」を収容するフレッツ網は一つしかないのと大きな差だ。しかもNTT西の光プレミアムの網は構築してから数年しかたっておらず,投資回収がまだ済んでいない。ユーザー収容の面でも,余裕があるという。

 光プレミアム網は,電力系通信事業者への対抗策として2005年に作ったものだ。IPv6を使ったセキュリティ機能を搭載するFTTHサービスを提供するために,NTT西日本が独自に構築した。このプレミアム網があるため,NTT西日本は今すぐ新たな網を構築することに積極的になれない。グループ主導でNGNを構築する施策とかみ合わないのだ。

 NTT地域会社のある幹部は,「プレミアム網は,1個数万円もする『CTU』と呼ばれる宅内装置を各ユーザーに無料で設置する。特にコストがかかるネットワークだ。プレミアム網の投資回収が終わらず,運用も続けなければならない状況でNGNを構築し,エリア拡大や新サービスの投入を続けるのは厳しい」と指摘する。投資回収の問題だけでなく,NGNができることで運用コストも増える。

NGN用の新規投資が厳しい財務環境

 さらに追い討ちをかけるのがNTT西日本の財務状況だ。2002年度や2003年度の決算では,NTT東西は歩調を合わせたかのように,同じくらいの利益水準で推移していた。

 だが,事業環境や設備環境の違いが影響したのか,2004年度以降は東西で営業利益に差が付き始めた(図1)。どちらも右肩下がりであるが,NTT西日本の営業利益の落ち込みは激しく,2007年度の計画では30億円である。2兆円に近い売り上げ規模からすると,かなり低い利益率に落ち込む事態となった。

図1●NTT東西の収益力の差
図1●NTT東西の収益力の差
2003年度以降,両社ともに右肩下がりだが,NTT西日本の落ち込みが激しい。2007年度はNTT東西それぞれ,NGNに150億円の設備投資を予定する。
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 こうした状況下で,数多くのIP網の運用を続けながら新たにNGNにも投資するのは大きな負担となる。2007年度の計画では,NGNに対する設備投資は,NTT東西それぞれで150億円ずつ。NTT東日本はまだ余裕があるが,営業利益が30億円の見込みのNTT西日本にとって,150億円の投資は厳しい。そのうえ,今後のエリア拡大計画を考えると,NGNへの設備投資は年々重くなっていく。

 「NTT西日本の収益力が弱いが,この問題をどう考えるのか」──。11月9日の中間決算発表の場で問われたNTT持ち株会社の三浦社長は,「東西の関係を含めて考えなければならないが,当面はNTT西日本のサービス拡大やコスト削減,投資の効率化などの施策に取り組むことで,NTT西日本の収益をプラスにしたい」と答えた。基本的にはコスト削減などNTT西日本の自助努力に期待する形だ。

 ただ,グループ主導のNGNの展開は,事業環境や財務状況などが厳しいNTT西日本を,さらに追い詰めることになる。

 三浦社長が言うように,NTT西日本のコスト削減や投資の効率化を考えるならば,現行の主力商品である光プレミアムの投資回収が最優先となるはず。しかし,その投資回収が終わらず,ユーザー収容の余裕があるにもかかわらず,新しいNGN用の投資が必要になる。NTT西日本はグループの戦略として,極めて投資効率が悪い施策の実施を迫られることになる。

 仮にエリア拡大や新サービスの投入などのペースが遅れると,これが新たな東西のネットワーク仕様の違いとして,ユーザーを惑わせることになりかねない。