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 2004年11月に発表されたNTTの中期経営戦略の柱は,「2010年度に加入電話ユーザーの半分となる3000万ユーザーに光アクセスを提供し,フルIP化したNGNに収容する」というものだった。加入電話網は2010年度以降のいずれかの時期に,NGNで巻き取る計画とした。

 今回,NTTグループは2010年度の光アクセスの提供目標を2000万ユーザーに下方修正したが,「NGNへの収容ユーザー数も2010年度に2000万」とは言っていない。加入電話網の巻き取りの話はあいまいにされた形だ。

 2010年度末にはNGNのエリアを,現在のBフレッツと同等のエリアに広げる計画だが,その何割のユーザーがNGNを使っているようになるのかさえ明確にしなかった(図1)。三浦社長は,「現時点で数値目標はないが,IP系の2重のネットワークはできるだけ早期に解消したいので,高い割合でNGNを使ってもらえるようにしたい」(三浦社長)と述べただけである。

図1●加入電話網,フレッツ網,NGNの併存はしばらく続く
図1●加入電話網,フレッツ網,NGNの併存はしばらく続く
2010年度末の光アクセスの目標を3000万から2000万に下方修正したため,加入電話網の巻き取りスケジュールは当初の予定よりも長引きそうだ。
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 当初の中期経営戦略は,「(6000万いた加入電話ユーザーの約半分である)3000万ユーザーを2010年度までに,光アクセスとNGNへ移し」,「NGNによる加入電話網の巻き取りを2010年度以降に視野に入れる」という,2段階のステップを踏むことになっていた。交換機を使う加入電話網といずれ決別し,電話も含めて様々なサービス提供が可能な,フルIP化したNGNへのインフラ一本化を目指す計画である。

 しかし,光2000万回線への下方修正で一つめのステップがつまづいたことになる。それに伴い,当初の中期経営戦略で描いた計画は白紙に戻ったようだ。

「光アクセス2000万」以後の展望がない

 NTTのNGNへのユーザー収容の目標があいまいになったことで,フレッツ網を巻き取るスケジュールばかりか,加入電話網の巻き取り計画まで不透明になりつつある。

 そのうえ,2010年度に2000万の光ファイバを引き終えた時点の収益構造がいまだ不透明なことも深刻である。

 中期経営戦略を発表した2004年ころに比べると,NTTの事業環境は大きく変わっている。NTT東西の加入電話の契約回線数はここ数年,年間約400万~500万もの純減を続けている。このペースでユーザーの減少が続くと,2010年度末には3000万回線程度まで減る(図2)。それに伴って,旧来の稼ぎ頭だった加入電話の収入は減少していく。

図2●2010年度に向けたNTT東西の固定電話とFTTHの契約回線数の推移イメージ
図2●2010年度に向けたNTT東西の固定電話とFTTHの契約回線数の推移イメージ
2010年度の「FTTH2000万回線」はNTTの目標。2008年度以降の固定電話契約回線数の推移は本誌の推定。
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 こうした状況で重要になるのは,光アクセス2000万回線を引いたときに,減収減益が続いているNTT東西を中心としたNTTグループの固定通信部門を,増収増益の成長路線に持っていけるのか,という点。もはや,NTTが2010年に光アクセスのユーザーを2000万回線にできるかどうかという目標達成は重要ではない。

 そのためには「NTTの都合で強引に2000万の光アクセスを引いただけでは意味がない。『ユーザーが新サービスを使ってくれるようになった結果,光アクセスやNGNのユーザーが2000万まで増えた』というアプローチができなければ,収益状況の改善は見えずNTTの将来も見通せない」と,NTTグループのある幹部は漏らす。中期経営戦略に対する危機感は,NTTグループ内でも大きい。

 フレッツの後継であるNGNで,既存と差異化できるサービスを出さない限り,NTTにはコストは増えるが収益は増やせない,という構造的な問題が残る。現時点では差異化できるサービスの具体像はなく,「このままではNTTのNGNが,地上デジタル放送をIP再送信するためだけのネットワークになるのではないか」(あるISP幹部)と懸念する声も出るほどだ。

 今後の見通しについて三浦社長は,「2010年度に光回線が2000万になるときに,NTT東西で大きな赤字が続いているなら,事業自体が成り立たなくなっていく」と,危機感をあらわにしつつも,「光のユーザー数の増加が続けば設備コストは下がるし,販売コストも下がる。スケール・メリットが出れば運用コストも安くなる。その上で,映像配信などの付加価値を付けて収入増を図り,事業が成り立つようにしたい」と,やや楽観的とも取れる見解を示した。

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 構想レベルを抜け,現実を見据えることで多くの修整が必要となった中期経営戦略。2010年度までの計画を変更した以上,2010年以降に向けた建て直しは欠かせない。

 NGNと光アクセスを中心に,日本の通信インフラの高度化を先導すべきNTTが目標を見失うことは,グループだけの問題にとどまらず,サービスを使うユーザーの不利益にもつながりかねない。必要なのは単なる軌道修整ではなく,根本的な戦略の見直しである。