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 雑誌の読者投稿欄で「システム基盤を担当する部門が軽視されていて不満」という声を見つけた。「ああ,今でもそうなのか」と,筆者は思わずため息をついた。

 かつて筆者が所属していた銀行の情報システム部門には複数の係があり,勘定系アプリケーション,銀行間取引(ディーリング)系アプリケーションなど,担当システムごとに分かれていた。当然,システム基盤を担当する係もあったのだが,その係は一時期「総務係」と名付けられていた。笑い話ではない。その係に所属するSE達が「おれたちは総務担当かよ!」と漏らしていたのを思い出す。

 総務係と名付けられた理由は知らない。おそらくシステム部門の予算管理を含む,開発以外の様々な仕事を一手に引き受けていたからだろう。

 だが,システム基盤の開発という高度な専門技術でプロジェクトに貢献しているという自負があるSEからみれば,「総務」という名は見当違いであり,面白いはずがない。間もなく名前は変更されたが,システム基盤の開発という仕事がいかに正しく理解されていなかったかが分かる。

 筆者が所属していた勘定系アプリケーションの係にも,同様の風潮があった。「システム基盤の担当者は業務知識がまるでない」というのが,同僚や後輩の口癖だった。ユーザーとのパイプを握っているのはアプリケーションの担当者だ,という優越感の裏返しだったのだろう。

 だが,システム基盤の担当者がアプリケーションの担当者に比べて業務を知らないのは至極当然である。その代わりに,ハードウエアからOS,データベース,通信回線など,アプリケーションの担当者にはまったく手が出ない,極めて専門的な技術知識を持っているのだ。

 だから筆者は,システム基盤の担当者とコミュニケーションを密にするよう心掛けた。システムに何らかの障害が発生した場合,システム基盤の担当者と連携を取らなければ,解決できないケースが多いからである。

 そもそもアプリケーションはシステム基盤があって初めて動くもの。いったんシステム基盤に障害が起きると,基幹業務システムが半日停止したり,貴重なデータがすべて失われるなど,深刻な事態に至るケースが多い。そのシステム基盤を軽視するなど,とんでもない話である。アプリケーションの担当者は「システム基盤様々」と拝んでもよいのではないか。

 その点,当時の筆者の上司は,理想的な経歴の持ち主だった。もともとアプリケーション畑の人間だったが,人事異動でシステム基盤を担当するようになり,数年後にまたアプリケーション畑に戻ってきた。つまり,システム基盤とアプリケーションの両方の知識を豊富に備えた,最強の人材だったのだ。

 ただ,部下にとっては頼もしい反面,これほど恐ろしい上司もいない。システム基盤とアプリケーションの強み・弱みを熟知しており,部下のごまかしの説明は一切通用しないからである。

 例えば,システム障害が起きたときに,アプリケーションの担当者がろくに調べもしないで「原因はおそらくシステム基盤にあるので,手が出せません」などと逃げを打とうものなら即座に一喝された。システム基盤の担当者も同様である。そのためこの上司のもとでは,システム基盤の担当者とアプリケーションの担当者が,本音では余り踏み込みたくない境界線を越えて一致団結し,問題解決に当たったものだ。

 この上司は口癖のように言っていた。「ユーザーから見れば,システム基盤だろうが,アプリケーションだろうが関係ない。ユーザーを蚊帳の外に置いて責任のなすりつけあいをするなど,裏方の花形たる情報システム部門の名折れだ」と。情報システム部門をこよなく愛し,誰よりもプライドを持っていた上司のこの言葉が今も忘れられない。

岩脇 一喜(いわわき かずき)
1961年生まれ。大阪外国語大学英語科卒業後,富士銀行に入行。99年まで在職。在職中は国際金融業務を支援するシステムの開発・保守に従事。現在はフリーの翻訳家・ライター。2004年4月に「SEの処世術」(洋泉社)を上梓。そのほかの著書に「勝ち組SE・負け組SE」(同),「SEは今夜も眠れない」(同)。近著は「それでも素晴らしいSEの世界」(日経BP社)