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「自社のITコストは,他社と比べて高いか安いか?」。難しい問いだが,大手50企業を対象としたITコストのベンチマーク調査により,その“相場”を明らかにした。「開発」「保守」など6分野の分析データを基に,企業のITコストを最適化するための指針を解説する。

黒須 豊
スクウェイブ 代表取締役社長

 企業の情報システム部門におけるITコストは,どのくらいが妥当なのか――。「売上高の1%が目安」といった話を聞くことはあるが,明確な根拠があるわけではない。ITコストの妥当性を巡る議論は,以前から繰り返されている難しい課題である。

 こうした不透明さが一因となって,多くの経営者は「ITコストを削減したい。削減できるに違いない」という願望を抱え続けている。問題なのは,この願望が往々にして「ITコストを全体で15%削減しろ」といった単純な命令につながりやすい点である。「15%」という数字が十分に吟味されたものならよいが,大抵は経営者が鉛筆を舐めながら決めた数字にすぎない。

 本来コスト削減は,投資効率が悪い領域を特定し,それを改善するという前提で実現すべきものであるはず。それなのに,実際に多くの企業で常識を無視した命令が下されている。

 なぜITコスト削減策が,このようなやみくもな施策になってしまうのだろうか。それは,ITコストの妥当性について,実態が全く可視化されていないからである。

ITコストの有効性と効率性を分離して考えるべき

 ITコストの妥当性を可視化することは,限られたIT予算を最も有効に使うために,情報システム部門が取り組むべき急務である。だが,それを考える際に,まず知っておかなくてはならない概念がある。ITコストにおける「有効性」と「効率性」の違いである。両者を混同すると,対応を誤る危険がある。

 ITコストの有効性とは,「ITが目的に合致した効果をどの程度実現しているか」を示している。一方の効率性は,「目的を達成するうえで,ITコストを必要以上にかけすぎていないかどうか」を問うことだ。ITコストの妥当性を判断する際には,これら2つを混同せず,きちんと切り離して考える必要がある。

 本来,ITコストの有効性と効率性の両面を分析すべきだが,本連載では「効率性」に注目して話を進める。理由は2つある。1つは,ITコストの有効性を議論するにはITコストの目的を定義しなければならないが,それは企業ごとに大きく異なるからだ。そしてもう1つの理由は,まず効率性に目を向けた方がITコストの実態や妥当性を把握しやすいからである。

業務ごとの効率性を調べないと破綻を招く

 「効率性」は,ITコストの適正水準を考えるうえで最も重要な要素の1つと言える。ITコストには,情報システムの開発,保守,運用など複数の業務を遂行するためのコストが含まれる。前述したように,これら全業務に対してITコストを一律に削減してしまうと,非常に優れた効率性を実現できている業務まで,不必要に予算を削減してしまう可能性が高い(図1)。これは,結果的に業務効率を悪化させ,ひいてはシステム自体の有効性を著しく低下させかねない。

図1●ITコストをやみくもに削減すると,業務効率を大幅に低下させる恐れがある。全業務のコストを一律に削減するのではなく,現状の業務効率に応じて削減すべきだ
図1●ITコストをやみくもに削減すると,業務効率を大幅に低下させる恐れがある。全業務のコストを一律に削減するのではなく,現状の業務効率に応じて削減すべきだ
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 簡単な例で考えてみよう。あるシステムの保守作業を5人の担当者が分担しているとして,担当者1人分の人件費を削減したとする。その場合,システムの有効性を維持しようと考えるなら,残りの4人が,従来担当していなかった保守作業まで受け持つ必要がある。

 不慣れであれば,専任の担当者がいる場合よりも作業効率は落ちる。さらに,1人当たりの作業が増えることで,これまでそれぞれが担当していた分の作業効率にまで影響を与える恐れもある。その結果,システム自体の有効性を損ねる可能性がある。こんなコスト削減策は妥当ではない。

 似たような話はいくつも存在する。ある企業では,ITコストを削減した結果,システムに不具合が発生してダウンしたにもかかわらず,改修費用を捻出できない状態に陥ってしまった。別の企業でも,運用業務のITコストを大幅に削減したために,事実上,システムを意図的に停止せざるを得なくなってしまった。

 このような事態を避けるためにも,企業はITコストの効率が悪い部分を見つけ出して,手を打たなければならない。やみくもに「ITコストを削減せよ」といった指示を出す経営者やCIO(最高情報責任者)は,「ITコストの妥当性など全く考えていません」と宣言しているに等しい。これは,経営者やCIO,そして情報システム部門の“恥”と心得るべきである。