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 今回は社会が拒絶しているものの、会社としては許容、推奨している領域の行為についてお話をします。

 この領域(赤の部分)は会社がかつて推奨していた、あるいは悪いとわかっていながら許容しているという行為です。やめたくてもやめられない類の問題行為で、建設業界の談合や食品業界の虚偽表示、あるいは官僚への接待などいろいろなものがあります。

これらの行為は長い間の慣行で培われ、それぞれの世界で常識化していますから、自社だけがやめても他社が継続すれば、自分たちは利益があがらなくなる傍らで他社は利益をあげるという事態が生じます。従って、本来は一社だけでなく業界全体で対応しなければならない問題がほとんどといえるでしょう。

 しかしながら、時代は変わりました。もはや「業界の常識だから」とか「必要悪だから」などと言っている状況ではなくなりつつあると思います。いつ、自分たちの会社がマスコミのターゲットになり社会から指弾されるかわからなくなっています。そうなってしまう前に、やはり会社として変わっていかなければならないのです。社会が拒絶している行為は何がなんでも撲滅しないといけません。

 この領域で重要なのは、まずトップが変わることです。前回のオレンジの部分(社会も会社も拒絶している部分)は全社員向けの研修をやり続けることが大切だと述べましたが、この領域はトップが変わらないとまったく意味がありません。最初に「私たちは変わります!」と、社内外に対してトップが表明し、幹部に対する教育を徹底的に行い、問題行為を起こしたときは制裁・懲戒処分をきちんと行うと約束し実施するのです。当然、幹部の登用基準なども変えていく必要があるでしょう。こうしたことをトップが不退転の覚悟で取り組まないと、変わることはできません。

 また、この部分について手をつけないと、他のコンプライアンスプログラムが社員に対してまったく説得力を持たなくなってしまいます。恥ずかしながら、私自身の数年前の失敗談をご紹介しましょう。ある会社でコンプライアンス意識を社員に浸透させるプロジェクトに取り組んだときのことです。私自身も一生懸命やりました。コンプライアンスハンドブックや行動規範をつくり、研修も行いました。しかし、残念ながら、うまくいったとは言えない結果に終わってしまいました。

 その会社では業務上である機械を使うのですが、その取り扱いに関する法律がかなり古く、機械の性能レベルが低いことを前提とした内容でした。要するに、機械はどんどん良くなっているので、今どき法律に書かれていることを守らなくても事故など起きなくなっているのですが、法律は法律ですからそれを守らなければルール違反です。これはその会社だけの問題でなく、業界全体がルール違反の状態にあるといってよいものでした。

 この会社では「これからはコンプライアンスを守っていく」と宣言し、社員に対する教育プログラムも行っていきましたが、社員からは本気だとは思ってもらえませんでした。なぜなら、作成したコンプライアンスハンドブックの中から、このルール違反の部分がいつのまにか上層部の指示で故意に落とされてしまったからです。社員は皆、そこに問題が存在することを知っていました。明らかなルール違反の改善に着手しなかったことで、「結局、会社は社外向けのパフォーマンスをやっているだけだ」と、社員は感じてしまったわけです。一緒にプロジェクトを推進してきたメンバーとともにたいへん悔しい思いをしました。(今なら、そんなことはさせませんが)

 膨大なエネルギーをかけてコンプライアンス意識の浸透に取り組んでも、こういうことがあると誰も社員は本気だと思ってくれません。むしろ、他の部分は適当にやったとしても、自他ともに大事だと思える問題についてきちんと解決する、少なくとも解決していく姿勢や第一歩を踏み出す意志を見せていればまったく違った結果になったことでしょう。

 会社にとって肝心なこの領域の問題を脇に置いて、いくら他のところで問題解決に頑張ったとしても、社員に対する説得力はまったくありません。見方を変えると、トップがこの領域に対して強い意志を持って変えていかなければ、会社のコンプライアンス体制は全く機能しないのです。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。


秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業