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 携帯電話やPHSとノート・パソコンを使ったモバイル・データ通信は,すっかり企業に浸透した。会社に戻らずにメールを確認したりWebサイトで情報収集したりと,ビジネスパーソンの業務効率向上に貢献してきた。

 しかし,固定ブロードバンドに比べると見劣りする伝送速度や,昨今の情報漏えいへの厳しい視線などで使いにくい状況に陥っているのも事実だ。セキュリティを理由に,ノート・パソコンの社外持ち出しを禁止する企業も増えてきた。通信事業者も「2005年の個人情報保護法の施行以降,モバイル業界全体でパソコン向けデータ通信サービスの伸びは鈍化した」(ウィルコムの寺尾洋幸サービス開発本部副本部長サービス計画部長)とぼやく。

 停滞気味だったパソコンによるデータ通信だが,2008年には状況を一変する動きがありそうだ。一つは,高速なモバイル通信手段の企業への広がり。パソコン向けのデータ通信定額プランが拡大することで,最大数Mビット/秒の高速な第3世代携帯電話(3G)を企業に導入しやすくなってきた。広く使われていたPHSよりも1けた高速で,大容量ファイルの送受信や最新Webコンテンツの閲覧を快適にできるようになる。

高速回線を使ってセキュリティも向上

 伝送速度の高速化は,セキュリティを向上させる用途にも使える。モバイル環境でも,LAN環境のようにシン・クライアントを快適に使えるようになるからだ。

 従来の数百kビット/秒程度の実効速度では「テキストを打ち込むにもストレスを感じる」(NTTコミュニケーションズ ブロードバンドIP事業部の高山充VoIPサービス部サービス企画担当部長)という使い勝手だった。だが,1Mビット/秒程度の実効速度が安定して出るなら,「動画は難しいが,文書やプレゼン資料の編集作業程度ならストレスなく利用できるようになる」(高山担当部長)という。

 シン・クライアントとは異なるアプローチで,セキュリティ機能を向上させる動きもある。遠隔地からの操作ロックやデータ消去など携帯電話で実装されている機能を,ノート・パソコンでも提供するというものだ。これは,ノート・パソコンへのモバイル通信機能の内蔵と,パソコンの遠隔管理機能の組み合わせで実現できる。

メガクラスの定額サービスが続々登場

 3Gデータ通信の定額化は2007年に一気に進展した。2007年3月,携帯電話事業に新規参入したイー・モバイルが,日本で初めてパソコン向けデータ通信サービスに完全定額制を導入したことがきっかけだ(表1)。最大3.6Mビット/秒のデータ通信を無制限に利用しても,月額5980円(2年間の長期契約割引を組み合わると月額4980円)と従来よりも大幅に安い料金で済むようにした。

表1●2007年までに登場した携帯電話・PHSを使ったパソコン向けのデータ定額プラン
ソフトバンクモバイルはパソコン向けのデータ定額プランを提供していない。
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表1●2007年までに登場した携帯電話・PHSを使ったパソコン向けのデータ定額プラン
 

 3Gデータ通信がメガビット級に高速化されたこと自体は,今から数年以上前にさかのぼる。KDDIは2003年に1xEV-DOを利用したサービスを,NTTドコモやソフトバンクは2006年にHSDPAを利用したサービスを開始した。しかし,どのサービスも携帯電話単体向けが中心で,パソコン向けの料金プランは従量制。使えば使うほど料金は青天井に高くなる。「カード端末の6~7割は法人契約」(NTTドコモの三木茂・法人ビジネス戦略部長)とはいえ,利用者数はあまり多くなかった。

 イー・モバイルの参入は,この状況に一石を投じた。同社のサービスは企業でも好評を博し,「会計事務所や法律事務所,コンサルティング・ファームなど,社員の外出が多く,扱う文書データが多い企業で導入が進んでいる」(イー・モバイルの阿部基成・執行役員副社長)という。

 さらに2007年後半から,ほかの事業者もパソコン向けのデータ定額プランを始めた。2007年10月,NTTドコモが上限1万500円になる2段階定額サービスを投入。NTTドコモの参入で,日本全国でパソコン向けの定額サービスが利用できるようになった。

 2007年12月には,KDDIがパソコン向けのデータ定額プランを開始した。これは,上限が5985円または6930円となる2段階定額で,全国で利用可能ながらイー・モバイルに迫る水準の料金を実現。パソコン向け定額サービスに本格的な事業者間競争を持ち込んだ格好だ。2008年以降,携帯電話事業者は料金面やサービス面で競争を展開し,さらにサービスを魅力的にしていくと期待できる。

 PHSを高速な3Gへ置き換える企業ユーザーも登場している。インターネット広告を手掛けるセプテーニは,2007年8月にウィルコムの最大128kビット/秒のデータ通信サービスから,イー・モバイルのサービスに移行した。現在,営業部門と管理職を対象に約65台のデータ通信カードを利用している。

 瀬戸口佳奈業務推進本部長は「伝送速度の高速化が社員から好評だ」とする。同社の営業活動では,顧客に対して過去に手掛けた広告の実績をプレゼンーションする。その際,ノート・パソコンとモバイル通信を使って,インターネット上にある実際の広告をそのまま見せることも多い。「伝送速度が高速だと重たいサイトでも素早く表示できる。営業活動がやりやすくなった」(瀬戸口本部長)という。データ通信の月額料金も,従来に比べておよそ3分の2に圧縮できた。

最大7.2Mビット/秒への高速化も始まる

 料金の定額化と並行して,伝送速度をさらに高速化する動きもある。先陣を切ったのはイー・モバイルで,2007年12月12日から最大7.2Mビット/秒のサービスを開始した。料金は,従来の最大3.6Mビット/秒のサービスから据え置きとした。同じ通信規格を採用するNTTドコモやソフトバンクも,遠からず最大7.2Mビット/秒に高速化するだろう。

 3G事業者に攻め込まれる側のウィルコムも対抗策を用意する。一つは伝送速度の高速化である。「制御アルゴリズムの改良とバックボーンの光化で,最大800kビット/秒,実効速度は500k~600kビット/秒にする。同時に,RTTを100ミリ秒以下に短縮して体感速度を向上させる」(ウィルコムの寺尾副本部長)という。

 もう一つは定額料金の値下げ。「現在,端末の割賦販売との組み合わせで月額料金を6000円に割り引くキャンペーンを実施している。これをベースに料金プランの値下げを検討する」(寺尾副本部長)。イー・モバイル並みの料金にしつつ,エリアが全国に広がることを売りにしていく方針だ。ただ,それでも3Gの速度とは差があり,「次世代PHSの登場までは,カード端末の競争力はやや厳しい」と認める。

 なお,音声サービスで準定額制を提供するソフトバンクモバイルは,「当分の間,パソコン向けの定額プランを用意するつもりはない」(宮川潤一 取締役専務執行役兼CTO)とする。ソフトバンクのADSL事業では,2年間でトラフィックが100倍になる経験をしたという。「トラフィックが爆発的に増える怖さを知っているだけに,音声ユーザーを守るためにも慎重にならざるをえない」。

ワイヤレス・ブロードバンドが2009年登場

 2008年よりも先を見ると,今後もさらなる伝送速度の高速化が予定されている(図1)。

図1●さらに高速なモバイル通信規格が2009年以降に続々登場
図1●さらに高速なモバイル通信規格が2009年以降に続々登場
第3世代携帯電話(3G)の高度化,モバイルWiMAXや次世代PHS,第3.9世代携帯電話(3.9G)などの登場が控えている。

 まず,HSDPAの上りを最大5.6Mビット/秒まで高速化する「HSUPA」を取り入れたサービスが,2008年終わり~2009年ころに登場しそうだ。W-CDMA方式を採用するNTTドコモ,ソフトバンクモバイル,イー・モバイルからの提供が見込まれる。

 KDDIは2006年に導入した1xEV-DO Rev.Aで上りの高速化は導入済み。現時点のサービスで,上り最大1.8Mビット/秒となっている。上りが速くなると,写真や動画のアップロードが容易になる。現場と本部でより密なコミュニケーションが取れるため,企業によっては仕事のやり方そのものを変える可能性がありそうだ。

 次に,2009年春ころからモバイルWiMAXや次世代PHSといったワイヤレス・ブロードバンドが始まる。このサービスは,最大20M~40Mビット/秒で,実効速度で数Mビット/秒を実現する。月額料金は3000~5000円と携帯電話・PHSよりもさらに安くなりそうだ。

 ワイヤレス・ブロードバンドの特徴として,端末と回線を分離することが挙げられる。通信仕様を公開し,それに沿ってメーカーが自由に端末を開発できるようにする。公衆無線LANのように,規格を満たした端末やカードならばどれでも接続できるサービスになる。そのため,携帯電話よりもニッチ市場を狙った端末が登場すると見込める。

 3Gの進化も続く。例えば,最大40M~70Mビット/秒とワイヤレス・ブロードバンドとほぼ同等の伝送速度を3Gで実現する「HSPA evolution」や「EV-DO Rev.B」といった技術が完成している。日本での導入は不透明だが,早ければ2008~2010年ころにサービスを開始する事業者が出てくる可能性がある。

 3Gの進化版の本命と見られているのが3.9G(第3.9世代携帯電話)だ。3Gとは技術的な共通点があまり無く,“次世代”と呼べる通信規格である。100Mビット/秒級の伝送速度を実現する通信規格であり,「モバイルFTTH」とも言える超高速なサービスとなる。特に熱心なのがNTTドコモで,「Super3G」という名称でLTEの開発プロジェクトを進めている。世界で見ると2010年ころに提供事業者が一部に登場し,日本では2011年以降に本格的に開始される形になりそうだ。