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 NTTグループの次世代ネットワーク(NGN)を使った地上デジタルテレビ放送の同時再送信の実現に向けた準備が佳境に入った。既に同サービスの提供主体となる有線役務利用放送事業者のアイキャストに対して,NHKと地上波民放事業者で組織する「地上デジタル放送補完再送信審査会」が技術条件などに関する提出書類を審査し,「条件付き適合」という判定を2007年12月に出した(有効期限は2009年12月25日)。今後は,東京・大阪を放送エリアとする地上波放送事業者各社が,実際に同時再送信に同意するかどうかが焦点となる。各放送事業者がIP再送信に向けた申請書類の内容を決めて,アイキャストがそのフォーマットに基づいた申請書を提出し,さらに放送事業者が同意すれば,再送信が可能になる。

 NGNを推進するNTTグループにとっては,地上デジタル放送のIP同時再送信を実現することは悲願であり,2008年3月に東京都と大阪府の一部地域で予定するNGNの商用サービスに間に合わせるため,関係者が懸命に準備を進めている。例えば,著作権処理に関するルール作りである。一方で,NTTグループが構築する映像配信プラットフォームをどのような形で開放するかの議論が,総務省で進められている。現在行われているこうした議論は,NGNを利用した今後の一般家庭向けサービスの主要項目の一つとなるであろう地上デジタル放送のIP再送信のひな形となるだけに,放送事業者や著作権団体の関係者の中には「慎重に対処したい」という声も出ている。


アイキャストが条件付き適合になったわけ

 今回,審査会がアイキャストの申請を条件付きで適合とした理由は,「遅延時間」と「地域限定性」の2点について申請内容が審査基準をクリアできていないためである。審査会は,審査基準の具体的な内容としてガイドラインを公表しており,この中で技術要件を示している()。ガイドラインでは遅延時間について2.5秒以内と記述されている。ところがIP再送信では,地上デジタル放送が採用する「MPEG-2」からデータの圧縮率がより高い「H.264」へ再エンコードしてから送信することになっており,この処理に時間を要する。動画像の場合,複数の画像フレームの相関をとって符号化するのが一般的であり,多くの画像フレームのデータをいったん蓄積してから処理をするため遅延が長くなる。こうした理由から,どうしても4秒弱程度の遅延時間が発生してしまうケースがあるようだ。

 再エンコードする理由は,圧縮率を高めることで複数のチャンネルを安定した画質で各家庭まで送信することである。異なる受信機で異なるチャンネルを同時に視聴できるようになる。しかし遅延時間を2.5秒以内に抑えてH.264で再圧縮するには,新たな技術開発が必要になる。もう一つの地域限定性については,地上デジタル放送の県域免許と一部で合致できない区域があるという。

 ただし,こうした技術条件についてガイドラインは,「関連技術の現状を踏まえて総合的な審査・判定を行う」とした。審査会の関係者の1人は,「条件付きとしながらも適合と判定したわけで,現在解決していない問題があるからといって,それを理由に再送信同意を拒否するケースは恐らくほとんどないのではないか」という。ただし別の関係者は,「ガイドラインを形骸化させるわけにはいかない」としており,NTTグループとしては今後も未解決の課題克服への取り組みが必要となりそうだ。

表●審査会が求めた技術要件の概要
地域限定性
  • IP再送信の対象地域を,当該地域の地上デジタル放送を行っている事業者の放送対象地域に限定することが可能であること
  • 不正アクセスその他地上放送事業者が想定しないアクセスに対して送信が行われないこと
著作権保護
  • 地上デジタル放送と同等のコンテンツ保護機能が継承されること
  • コンテンツ保護のエンフォースメントが実現可能なこと
サービス・編成面の同一性
  • ハイビジョン放送やサラウンド放送(CMを含む)などについて,IP再送信の対象地域においてあまねく地上デジタル放送と同等の品質が保たれること
  • 映像や音声の表示形式が地上デジタル放送と同等であること
――など8項目を規定
技術面の同一性
  • 通信トラフィックが輻輳した場合での,再送信品質に低下をきたさないように優先制御などの品質保持機能,パケット損失に対処できる誤り訂正機能を有する
  • 映像・音声・データ放送の遅延は地上デジタル放送の電波による受信に比べてシステム全体で2.5秒以下であること
――など19項目を規定
※詳細:地上デジタル放送補完再送信審査会ホームページ
http://www.nab.or.jp/shinsakai