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テクノロジの問題をデザインで解決する

岩城: アートスクールの学生の間にテクノロジを学ぶ希望の多いことをどう捉えていますか?

前田: 数を生かしていない。たくさんのニーズをどう生かすかが問題です。

岩城: 前田さんがマサチューセッツ工科大学からRISDに移ったのは効率化が目的ですか(笑)。

前田: そうです。いや冗談です。それだけではないです!私は以前からテクノロジが今のような進化を続けて行くことに疑問がありました。肥大するテクノロジをさらにテクノロジで支えている。僕のようにテクノロジを知り尽くしている人間ですら,満足に使いこなせない一般向けの機器がある。普通の人はどう思うだろう。テクノロジは本来普通の人々のためにあるものであって,これは望ましくない傾向です。

岩城: テクノロジ側の問題をデザインが解決できるという考え方でしょうか。テクノロジはむしろ機器などのユーザーインタフェースを最適化するうえで制約になってきたという事実もありますね。また,いまやデザインにはいろいろな方向性やミッションがあります。知覚的な部分を越えて,サービスだとか機能,戦略作りもデザインの範疇に入ってきている。デザインの役割は広がっている。

前田: 僕はライティングもデザインの一つだと思います。本当に優秀なデザイナーは文章が書けなければいけません。アーティストもそうですけどね。今の時代はクリエーティブについて他者と話をして伝えなければならない。contextualize(与えられた条件を明確にし,脈絡化すること)すべきなのです。「こういう作品」だけで表現できない。作品を見せるだけでは伝わりません。

岩城: ライティングとは,コンテクスト,つまり文脈を作ること,と解釈すれば良いのでしょうね。そのように,デザインの役割は広がっているとして,その構成要素を現存のデザインカテゴリに当て嵌めようとすると,それぞれのカテゴリの範囲内に理解が狭められてしまいますよね。この先ウェブデザインを包括するような新しいカテゴリはできると思いますか?

前田: カテゴリを欲しがる人はたくさんいます。私はデザイナーです。私はライターです,とね(笑)。学長になると決まってから,いろんな人が聞いてくるんです。「あなたは自分が学長になってびっくりしてるって感じですね。どうしてそんなに自信がなさそうなの?」ってね。

 そう。びっくりしてるんです。私はもともと何をやるにも自信がない。試すのが好きなだけ。探求するのが好きなんです。よりナイーブな心境から何でも始めたい。それは自信のなさが原因なのかもしれないけど,いつもオープンマインドでいたいんです。

カテゴライズが極分化を招く

岩城: RISDにウェブデザインの学科はありませんが,そうした学科を新設したうえでテクノロジとデザインの融合を試みたほうがよりわかりやすいと感じませんか?

前田: わかりやすくすると,進化が止まってしまいます。また,カテゴリを明確にすると,他のカテゴリとの摩擦が起こります。その摩擦が,学習や技術を磨くことに有効とは限らない。新しいカテゴリを作ることは極分化を招いてしまうことだと考えています。

岩城: ではウェブデザインが未分類のままであるとして,デザインとエンジニアリング両方の素養が必要な仕事をこれから始める人は,どこでどう勉強すると良いでしょうか。

前田: ウェブの世界は毎日変わります。いつも新しいものがどこかからか,コロッと出てくる。しかし基本は変わりません。ウェブの世界を形作るテクノロジの基礎部分は,変わらないのです。コンピュータはプログラム。プログラムは数字。数字はマイクロコード。その上で走るシステムや表現の進化に振り回されるよりも,20年先のコンピュータを考えるほうが楽しい。

 例えば数字じゃなくて言葉がベースのコンピュータ。そんなものが出てくるかもしれない。そういう柔らかい素材のウェブが出てくることを,考える。そんなことに私は興味がある。自分のプロフェッショナルを定義するより「ウェブサイエンティスト」の登場を想像したほうが良いと思います。そうすれば社会全体がもっと先に行く。

岩城: たしかにウェブは進化の流れが激しいですが,今やコミュニケーション手段として重視されています。もう運営していない企業はないほどです。

前田: 企業とウェブという意味では,私はウェブデザインをファッションデザインに近いものと捉えています。情報を公開する人の思考,頭脳をファッション化したものです。脳(思考)の品格(ブランド)がこれからは問われます。

 1999年までのウェブデザインはグラフィックに近かったため見た目の評価に留まっていましたが,2000年以降はアイデンティティデザイン,つまりサイトのあり方そのものが評価の対象になりました。

岩城: カテゴリの中で段階的な学習がしにくいウェブデザインは,何か拠って立つものが無く自信を持ちにくいとも思いますが。

前田: それは仕方がない。新しいことをやっている人っていうのは安住できないものですよ。その安住しにくさが若さ。青春ですよ(笑)。

 逆にそれは素敵なことです。その状況を楽しめるのが一番健康的じゃないですか。まだ大人じゃないんだよ。ってね。