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ウェブデザインはコミュニティデザインである

岩城: もしRISDでウェブについて教育することになったら,学部を新設するなどしたうえで教えることはない?

前田: 今そういう形にするとみんな付いて来ないと思う。現在16学部あるなかで学部を新設することは,新たな壁を作ることにもつながります。しかし学内のネットワークシステムをオープンにし,システムをコミュニケーションの場として学生に提供して,先の可能性を考えられる環境が整ったら状況は変わるかもしれませんね。そうなればウェブデザインや,デジタルテクノロジーにマッチするようなデザインやアートを教えることもできるかな。

 今はまず学内にコミュニケーションの場を作るためのブログを設立したところです。匿名での発言も可能にして,次は学生とか先生でも,だれでも話ができるようにします。

岩城: コミュニティデザインという分野がまず先にあって,その中にウェブデザインが生まれるということ?

前田: ウェブデザインの次のステップはアイデンティティデザインと,コミュニティデザイン。そういう方向がいいでしょう。ウェブはそもそもテクノロジ。ゴールではないですよね。逆にコミュニティデザインの分野でウェブをうまく生かすことができます。

 また,新しいデザイン表現やファッションも,ウェブの新しい可能性を生かしている分野です。しかしそれは新しい分野,ということではない。場所と人間の新しいステップを意味します。そこには心理学も入ってくる,組織の構造論も入る,テクノロジも入る。デザインは,違った次元ではあるけども,入る。

 でも要素は一緒です。大切なのはoptimize(最適化),improve(改良),aesthetic(美感)。既存の分野を組み合わせて,それぞれのクオリティを上げることが重要ではないでしょうか。

「I trust you」はお金にできる

岩城: 将来的なウェブのありようはどのようなものだと考えますか?

前田: 私はブログを書いています。既存のメディアを通してでなく,自分の言葉で話がしたいと思い,始めました。そうすれば認識の違いや誤解を生じる可能性がなくなりますし。

 それに人間は扉が閉まっていれば,向こうになにがあるのか,場合によっては恐ろしげなことさえ想像するものですよね。しかし常に扉をオープンにしていたら,そんなことは単なる想像だったと安堵するはずです。

 そもそもネットワークはクローズドな状態で成り立つものではない。ウェブの基礎概念はネットワークです。目に見える部分をオープンにするだけではだめで,中味までもオープンでないとネットワークとは言えない。

 もし世界を震撼させようと思うなら,世界中の電子メールの内容をオープンにすればいい。クローズドな情報が明るみに出れば,株価などビジネスに悪影響を及ぼしますよね。情報は危険なものです。しかし,それは隠されているから。ならば初めからオープンにしてしまえば,恐れるものは何もない。私はウェブの本領はオープン性にあると考えます。そのサービスをデザインするのがウェブデザインです。

注:前田氏はRISDの運営に関わる様々な連絡事項を個別にメールで受ける方法でなく,学内サイト上で受け付け,オープンなコミュニケーションを図っている。

岩城: 日本は個人情報の規制などで逆の方向を進んでいます。

前田: 信頼し合って,情報伝達の仕組みをオープンにすればブランドの価値が上がります。「I trust you」はお金に還元できるんです。

岩城: なるほど,オープンマインドがウェブを変えていく! コンピュータサイエンティストとして,また,メディアデザイナーとして,そしてウェブサイエンティストの先駆けとして,常に柔軟に変化しながら時代をリードしてきた前田ジョンの次の姿を楽しみにしています。

 来日した中のお忙しい日程の間の少しの時間でしたが,お話がうかがえて幸いでした。前田さん,ありがとうございました。


●参考ウェブサイト
 カルティエ現代美術財団
 RISD:Rhode Island Shool of Design
 MAEDASTUDIO
 The aesthetics + computation group