PR

プロジェクトの中には“職人”と呼ばれるようなメンバーが1人や2人はいるだろう。職人はパフォーマンスが高く,高品質な成果物を作るが,意外にも,それがあだとなってプロジェクトの生産性を下げるケースが多い。顧客が,すべての成果物に“職人品質”を求めるからだ。そんな時,PMOはプロジェクト全体が過剰品質にならぬよう,職人技を生かす場づくりに取り組もう。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 皆さんのプロジェクトの中にも,「ここまで書くか」というくらい詳細な業務フローを書けたり,高品質なプログラムを他のメンバーの2倍以上のスピードでコーディングしたりできる“職人”がいるのではないでしょうか。

 このようなスーパーマンやスーパーウーマンはモチベーションが高く,高品質な成果物を作るため,プロジェクトにとって非常に貴重な存在です。ただし,PMOが職人の振る舞いをある程度導いてあげないと,意外にもプロジェクト全体としての生産性が落ちるケースが多々あります。

 高品質な成果物を作る職人が活躍すると,なぜプロジェクト全体の生産性が下がるのでしょうか。それは,職人はスキルもパフォーマンスも高いため,「過剰な品質」を作り込んでしまいやすいためです。職人により過剰に作り込まれた品質に対して,「他のメンバーが受け持つ他の部分の品質が追いつけない」という現象が発生するのです。

顧客は一番高いレベルに合わせて全体品質を求める

 PMBOKには品質の定義として「品質とは,本来備わっている特性がまとまって,要求事項を満たす度合い」と定義しています。ここで言う品質の要求事項とは,「プロジェクト計画書などで定義されたコストや期間を考慮しつつ,プロジェクトの目的を満たせられる品質」だと言い換えられます。

 ここで重要なポイントは,「過剰な品質は不要」ということです。あえて大げさに言うなら,社内のコミュニケーション・ツールを作るのに,スペースシャトルの通信システムのような,絶対に故障を起こさないほどの信頼性や冗長性は不要です。PMOはプロジェクト計画書で定義された「適切な品質」を目標として,品質をコントロールしていかなければならないのです。そうしないと,予算や納期を守れません。

 職人が作る成果物は,高品質ですばらしいものです。しかし,顧客から見ると,その一番高い品質の成果物が基準になってしまいがちです。他のメンバーが作る成果物にも,その“職人品質”を求めてきます。もし,あなたが顧客の立場だったらどうでしょうか。品質がばらついていたら,きっと品質の高いほうに揃えてくれと要求することでしょう。

 こうなると,プロジェクトとしては大きな問題です。顧客が求める品質と,平均的なスキルのメンバーが作る成果物の品質にギャップができてしまうのです。

 では,職人に「他のメンバーの品質に合わせて成果物を作ってくれ」と指示すればよいのでしょうか。もちろん,それはあり得ない指示です。パフォーマンスが高い貴重な職人を有効に活用できないばかりか,職人のモチベーションを下げてしまいかねません。

 そればかりか,プロジェクト全体への悪影響も懸念されます。職人と呼ばれる人々は“声の大きい人”であり,非公式な場で大きな力,大きな影響力を保持している場合があります。つまり,職人のモチベーションを上げて,十分な活躍の場を与えれば,組織としてのパフォーマンスが上がるけれども,逆に職人のモチベーションを下げてしまうと,“腐った蜜柑”のように他のメンバーへ伝染し,プロジェクト全体の士気を下げかねないのです。

職人技を品質向上に生かす

 PMOとしては,そのような職人が活躍できる場を設けて,プロジェクト全体の品質向上を図るべきです。例えば,職人の活躍の場として,以下のような役割が考えられます。

(1)各チーム間の成果物を横断的にレビューし整合性をとる役割を与える。
(2)手順書やマニュアル,サンプルを作成してもらう。
(3)標準化ルールを作成し,メンバーの成果物のチェックをしてもらう。
(4)次の工程で必須となる,難易度の高い課題を先行して担当してもらう。

 また,第22回の『PMOは火消しの「遊軍」たれ』で述べたように,業務的に難しい課題に対して,大事になる前に火消しをするような遊軍的な役割もいいかもしれません。

 つまり,職人が保持しているノウハウをプロジェクト全体で共有し,他のメンバーが活用できるような役割を与えるのです。その結果,プロジェクト全体の品質が高まるだけでなく,プロジェクト全体のパフォーマンスを向上させることも期待できます。

 皆さんのプロジェクトでも,職人が持っているノウハウをどのように引き出し,有効活用できるか,一度話し合ってみてはいかがでしょうか。


後藤 年成(ごとう としなり)

 大学卒業後,ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後,2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年、マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp