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 情報通信審議会情報通信技術分科会の放送システム委員会は,2011年以降の運用を想定した次期放送衛星(BS)の暫定仕様の作成を進めている。提出された中間報告の仕様案を見ると,大きく二つの特徴があるといえそうだ。一つは,欧州のデジタル放送の標準化団体であるDVBがまとめた衛星デジタル放送の仕様「DVB-S2」を大きく上回る伝送効率を目指していることである。もう一点は,著しく発展するデジタル家電・薄型テレビへの対応を図っていることである。


 総務省は2008年2月13日,2011年以降に利用を開始するBSデジタル放送用周波数を使う委託放送業務の認定に関するスケジュールを発表した。まず2008年4月に,関係団体の協力を得て新たなBSデジタル放送の受信環境の現状などについての調査を実施し,その結果を公表するなどとなっている(発表資料)。既に情報通信審議会情報通信技術分科会の放送システム委員会は,2011年以降の運用を想定した次期放送衛星(BS)の暫定仕様の作成を進めている(同委員会における配布資料や議事録はこちら)。2008年4月に予定する最終報告に先立って,2008年1月25日には作業班から中間報告が委員会で示された。提出された中間報告の仕様案を見ると,大きく二つの特徴があるといえそうだ。一つは,欧州のデジタル放送の標準化団体であるDVB(Digital Video Broadcasting Project)がまとめた衛星デジタル放送の仕様「DVB-S2」を大きく上回る伝送効率を目指していることである。DVB-S2との整合性を重視するより,むしろ差異化を図ることに主眼をおいた仕様といえる。もう一点は,著しく発展するデジタル家電・薄型テレビへの対応を図っていることである。


DVB-S2を上回る伝送能力を持つシステム

 DVB-S2は,世界の衛星放送の事実上の標準となっているDVB-Sの後継として,2005年に発表された仕様である。衛星放送のHDTV(高精細度テレビ)化をにらみ,高速化が図られている。例えば,日本のBSデジタル放送と同じ8相PSKを導入してシンボルの多値化を図ったり,誤り訂正方式にLDPCを採用して誤り訂正能力の強化を図ったりしている。

 これに対して今回の暫定仕様案では,例えば「0.1」というロールオフ率のパラメーターに注目すると,いかに野心的な仕様であるかがわかる。ISDB-Sでは0.35,DVB-S2では0.35,0.25,0.20である。ロールオフ率を小さくすると,シンボル速度の高速化が図れる。ただし,受信機に要求されるデジタルフィルターのタップ数が大幅に増えるため,要求される回路規模が大きくなる。しかし,半導体の技術進展を見越して,DVB-S2を大きく下回る値を選定した。シミュレーションによると,ロールオフ率が0.2の場合の最大シンボル速度が31.9Mシンボル/sに対して,0.1では33.6Mシンボル/sとなる(条件は占有帯域幅が34.5MHz以内など)。

 このほか,例えば誤り訂正に採用したDVB-S2と同じLDPCにも,独自の工夫を凝らしている。具体的には,符号長(44880)をMPEG2-TSの整数倍とすることによる伝送効率向上を図っている点である。さらに,複数のトランスポンダ(電波中継器)の信号に束ねて送信できるバルク伝送の導入や,アンテナ径は大きくなるが変調方式にAPSKを採用してシンボルのさらなる多値化を図っている点である。こうした工夫の結果,45cmの受信アンテナを使った場合に現行方式では変調方式に8相PSK(符号化率2/3)を利用して52Mビット/秒だった伝送速度が,暫定方式では同じ8相PSK(符号化率は3/4)を使って70Mビット/秒まで高速化できる。


色表現の拡大やネット家電へ対応

 デジタル家電や薄型テレビの発展への対応という点では,例えば色表現がある。暫定方式では,3原色信号(RGB)に負値や1を超える値を許容することで,広い色域の表現を可能としている。現行の放送方式ではRGBとして0~1までを利用しているが,この場合は自然界に存在する色のすべてを表現できない。

 液晶テレビやPDPテレビは色表現の範囲をどんどん広げている。こうしたディスプレイの表現能力を最大限に生かそうという狙いである。元々は,放送のHDTV化を機にデジタル家電機器に合わせるという形で「放送が先行しAV家電機器が追いかける」という構造だったが,その構図が逆転し始めているともいえそうだ。

 さらに動画像関連では,基本の映像フォーマットの一つとして「3840x2160/60P」を入れた。さらに,TBD(To Be Determined)ではあるが,標本化周波数比として4:2:2に加えて4:4:4の検討も行われている。

 データ放送関連で浮上しているのが,ARIB-J(ARIB STD-B23,Javaベースの共通APIでデジタルテレビのアプリケーションを実現)である。BML(ARIB STD-B24)との関係を見直し,STD-B24の改定も視野に入れる方針である。具体的には,BMLの機能拡張にARIB-Jを利用したり,サービス互換性の確保のためARIB-Jアプリケーションの起動にBMLを利用したりするなどの機能の追加が候補となるという。

 こうした動きの背景にあるのがネット家電の発展である。今後ARIB-Jの拡張として,「アプリケーション蓄積機能とシグナリング」,「デジタルビデオレコーダAPI」,「UPnPによる宅内ネットワークアクセス」などを検討する。受信機全体の視点から検討を進めているという。