PR

 次に社会が推奨または許容し、会社も許容している領域です。ここの領域はとくに問題はないのですが、できれば会社が推奨できるような働き方に変えてほしいところです。

 「毎日、遅刻をせずにきちんと来て、与えられた仕事をきちんとこなす。」これができれば、社会の目から見れば、何の文句もないこととなります。しかし会社によっては、この働き方を問題とすることはなくても、決して良いと評価しないところもあるでしょう。「当社にとって、昨日と同じことを繰り返すことは退歩を意味する。自主的な改善なくして、あなたを高く評価することはできない」と。ベンチャー企業や革新型企業においてよく見られる価値観です。

 会社を強くするには、単なる許容行為ではなく推奨行為を行う人をどれだけ増やしていけるかがカギとなります。では、会社の視点軸において、許容行為と推奨行為を分けているものは何でしょうか。それこそが、経営理念やビジョン、行動基準です。社員一人ひとりが経営理念やビジョンをどれだけ理解し、自分の日々の仕事に落とし込んでいるかどうかで会社の力量が決まります。そしてこれは業績にも大きな影響を及ぼすのです。

 しかし、会社が求める行動のあり方と実際の個々人の仕事にはいろいろなズレがあるのが多くの会社の現実でしょう。そこで理念やビジョンを自分の仕事に落とし込んだとき、具体的にどのような行動の在り方、物の考え方になるのかをしっかりと認識し、実行できるようになることが大事です。この教育プログラムについては次回以降にお話することにします。

 最後に、社会も会社も推奨している領域もあります。誰が見ても良い行為ですからこの領域に関しては何の問題もありません。

 ただ、気をつけておかなければならないことは、会社の推奨行為そのものが事業戦略の変更等によってどんどん変わってくることです。以前は「新規の顧客開拓がもっとも重要な推奨行為」であった会社が、突然「既存顧客のサポートが最重要視される行為」のように方向転換するといったことは、よくある話です。
そういった場面にあっては、会社から従業員に対して、方針変更の明確なメッセージを出すとともに、業績評価の指標、人事考課の評価基準を変更し、会社の価値基軸の変更と整合を取りながら、行動そのものを変えてもらう支援をしなくてはいけません。

 また、社会の視点も何かの機会で一瞬に変わってしまいます。
 「昨日の社会の寵児は、今日の社会の敵」なのです。ITバブルの際には、多くのベンチャー企業のビジネスモデルが、新しい社会を切り開くかのように喧伝されたのに、少し危うくなると手のひらを返したかのように非難されました。会社自体のやっていることは何もかわっていないにもかかわらずです。「上げておいて、落とす」というのはマスコミだけにとどまらず社会全体の行動文法になっているようです。
したがって、自分たちのやっていることが、社会から少しばかり評価が高いことに対して浮かれてはいけません。いろんな人からチヤホヤされ、いい気になったために、自分たちの能力、価値がフィットしないビジネスによく調べもせずに進出し、会社を経営危機に陥れた例はいくらでもあります。

 社会からの推奨を得ることはとても重要なことですが、ただ、そこは制御不能なことがあまりにも多いのです。まず、自分たちにできることは、自社において大事なことは何かということを社員全員に周知徹底することです。
 こちらについても次回以降で、どのように進めていけばよいかお話したいと思います。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。


秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業