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 前回に引き続き、今回もケース学習の事例をご紹介したいと思います。次は組織運営をテーマとした問題です。

〔例3 組織運営の問題〕
 当社では重要な意思決定をする際に、どのような手続きを経るか? 正しいものを選べ。
(1)複数の人間が集まって、コンセンサスができるまで話し合う。
(2)複数の選択肢をつくるとともに、評価基準を作って皆で検討し、最後は責任者が決める。
(3)ケースバイケースで責任者が決めてもよいし、集団で討議して決めてもよい。

 ご覧の通り、この設問にどの会社でも当てはまる正解などありません。ただ、この会社では(2)の回答のように運営していこうとの意思がありました。この問題はその考えを浸透させるためにつくったわけです。いつまでもみんなで討議していては解決に結びつかないから、まず、どういう選択肢があるかを洗い出す。次に、本当にそれができるかできないか、できるとすればどれがベターな選択なのか、評価基準をみんなでつくって討議しながら、最終的には責任者が決定を行う。そんな組織文化をつくるためこの問題を考えてもらいながら、「うちは(2)でいくんですよ」と社員の理解を促し、考え方を共有していきました。

 もう一つ、組織運営の問題をご紹介します。

〔例4 組織運営の問題〕
 本来必要な許可を得ないまま、独断で業務を遂行して大きな成果を残した。このとき会社はあなたをどう評価するか?
(1)手続きは厳格に遂行されるべきであり、たとえ結果がよかったとしても評価しない。
(2)結果は評価するが、手続きを飛ばしたことに対しては懲罰が下される。
(3)事前にリスク評価がどのくらいできていたかによって変わるので、事後、しかるべき担当者から事情聴取される。

 この会社では回答の(1)を自社の価値判断基軸にしようとしていました。リスクのあることを勝手にやられては困ります。「勝手に業務を進めたらどんなに成果を出してもあなたは評価されません」「そのかわりに社内手続きは迅速に対応します」、ということを表明したかったので、このような問題を通じて価値観を浸透させていったのです。

 最後は日々の業務に関する問題の例です。

〔例5 日々の業務の問題〕
 営業活動における「移動」についての考え方として、正しいものはどれか?
(1)経費を削減することは大変重要なので、一番安い方法を選ばなくてはいけない。
(2)直接顧客訪問することは、移動時間などムダが多いので、できるだけメールと電話を使い、受注のときだけ訪問する。
(3)営業活動において訪問は大事であり、時間を上手に使うためにはタクシーをつかってよい。

 これもどの会社にも当てはまる正しい回答など存在しない問題です。この会社では(3)を答えにしています。

 以下の話は上記の会社とは別の話です。私がリクルートに入社したとき、創業者の江副社長(当時)がつくった営業マニュアルという文書がありました。それを見てびっくりしたのが、「積極的にタクシーを使え」という一文です。一般的な会社ではあり得ないことだと思います。ただし、ちゃんと理屈もあり「営業マンにとって一番大事なのは時間だから、タクシーに乗って時間が買えるのならどんどん使いなさい。そのかわり、たくさん実績をあげなさい」と。

 東京の場合、タクシーを使って本当に時間を節約できるかどうか、?なところもありますが、コストサイドのことよりも、時間を大事にして売り上げを増やすほうに社員の注意を持って行ったわけです。ですから、当時はよっぽどのことでもない限りタクシーの使用に関しては問題にされませんでした。(現在のリクルート社が、どのように判断しているかは、存じておりません。)

 例5のような設問は、会社次第でどの回答が正解でも構わない種類のものです。しかし、それらについての答えとその背景にある一貫した価値判断基軸が明確になっておれば、社員は大変働き安い環境を手にいれることができるのです。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。


秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。2006年11月より現職。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業