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 米国の大統領選が例年になく盛り上がっている。理由は言うまでもなく,バラク・オバマ氏とヒラリー・クリントン氏による民主党の候補指名争いだ。

 特にオバマ氏の躍進は,民主党支持者だけでなく,全米規模の関心事になっている。2月5日(米国時間)の“スーパー・チューズデー”の後,オバマ氏はクリントン氏に対して7戦7勝。この記事を執筆している時点では,2月19日(同)に3州で行われる党員集会や予備選挙の結果は分からないが,少なくともオバマ氏が善戦することは間違いないだろう。

 オバマ人気の理由としてよく指摘されるのは,その演説の巧みさである。現地からの報道を総合すると,自信にあふれた振る舞いや,シンプルなメッセージの繰り返しなどに,聴衆は強いカリスマ性を感じているようだ。今回の大統領選では,そうした候補者のイメージを伝えるうえで,新聞やテレビの報道に加え,YouTubeなどの動画サイトが大きな原動力になっているという。

 メディアとしての動画サイトの存在感が急速に高まっていることは言うまでもない。しかし,大統領選の行方を左右するほどの力が本当にあるのだろうか。そしてオバマ氏の演説は本当にスゴイのか。百聞は一見にしかず,筆者もYouTubeで大統領選関連の動画をじっくり見てみた。

 ご存知の方もいると思うが,YouTubeは2007年3月から,大統領選の候補者が動画を使って政策を訴えたり視聴者と交流したりするためのサイト「You Choose '08(日本語サイトはこちら)」を設けている(関連記事1関連記事2)。

 You Choose '08では,候補者が政策・信念などを伝えるメッセージや講演風景,視聴者が投稿した応援メッセージ,報道機関によるニュースなど,様々な動画を閲覧できる。「On the Issues」というコーナーでは,イラク問題・経済・医療・教育といったテーマごとに,個々の候補者の主張を横並びで見ることが可能だ。各候補者には,それぞれに関係する動画をまとめて閲覧できるようにした,専用の“チャンネル”も用意されている。

 ふと,筆者はサイトのあちらこちらをクリックし,興味本位で多くの動画を矢継ぎ早に見ていることに気づいた。何のことはない。テーマが大統領選というだけで,スポーツやお笑いなど好きなジャンルの動画を見るときと同じ感覚で,つい見入ってしまったのである。

 複数の候補者の動画をいくつも見たうえでの印象だが,やはりオバマ氏の演説には,見聞きする者の注意をぐっと引き付ける力があると感じた。筆者の英語力ではよく聞き取れない部分も多かったのだが,身振りや発声,視線だけからでも,支持者を増やしている理由が分かったような気がする(念のためだが,筆者には特定の候補者を応援する意図はいっさいない)。

 投稿された動画の中には,ある講演での演説シーンを背景に映しながら,多数のミュージシャンがオバマ氏の発言内容と同じ台詞を語り(歌い?)つなぐ音楽クリップもあった。制作を思い立ったミュージシャンは,この講演を聞いた聴衆の1人だったらしいが,これを見て一発でファンになった若い有権者も多いのではないだろうか。

 とにかくテレビで短時間流れるニュースだけでは気づかなかったことや知らなかったことが,いろいろ見えてきた。やはり米国の有権者が動画サイトから受けている影響は,決して小さくないと思う。次回以降の大統領選でも,各候補者が今回以上に動画サイトを重視した選挙戦略を展開することは間違いない。

 ただ,このような動画サイトで作られる人物のイメージが,かなり肥大化していることも事実だろう。仮に,イメージとのギャップが当選後に露見すれば,その分,有権者の失望は大きく,しっぺ返しも厳しくなる。逆に,動画サイトによってイメージが悪化してしまうケースだって当然あるはずだ。これがポスト・テレビ時代のメディアを駆使した選挙の宿命なのかもしれない。