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 前々回はファイル交換ソフトを悪用したコンピュータ・ウイルス,前回は外部からの不正アクセスによる情報漏えい事件を取り上げたが,いずれも過去に同じような事案が発生していたものばかりである。

 2008年2月19日には,第一三共が,旧三共従業員の個人情報約6000人分を含む業務関連情報の流出を発表した(「業務委託先からの情報流出について」参照)。情報は,外部委託先である日立製作所の社員のパソコンから,ファイル交換ソフトを介してインターネット上に流出したという。

 従業員の個人情報管理について一義的責任を負うのは雇用主である。厚生労働省の所管分野に関わってくるが,「外部委託先」「私物パソコン」「ファイル交換ソフト」というキーワードは,第122回で取り上げた住民基本台帳からの情報漏えい事件と同じである。前々回で触れたように,ファイル交換ソフトを悪用したウイルスも日々変化しているので,情報セキュリティ対策の継続的改善が要求される。

 折りしも,経済産業省が改正個人情報保護ガイドラインの普及・啓蒙活動を行っているところだ(「経済産業分野を対象とする個人情報保護ガイドラインに関する説明会について参照)。国民の目線と情報サービス業界やIT人材を供給する教育機関の認識との間にズレが生じていないか,再確認すべき時でもあろう。

 さて今回は,本連載であまり扱うことのなかった農林水産分野の個人情報漏えい事件について取り上げてみたい。

農林水産省と経済産業省から報告徴収を求められた日進貿易

 2008年2月8日,農林水産省と経済産業省は,大豆・小豆・とうもろこし・コーヒー等の商品先物取引を取扱う日進貿易に対して,個人情報保護法第32条の規定に基づく報告を求めたことを発表した(農林水産省「商品取引員1社に対する個人情報保護法に基づく報告の徴収」,経済産業省「商品先物会社1社に対する個人情報保護法32条に基づく報告徴収について」参照)。

 両省の発表によると2007年12月,日進貿易から顧客データの漏えいが発覚したとの報告を受けたという。日進貿易名古屋支店が保管する顧客の個人情報を基に作成したと思われる顧客データが,同社札幌本社に郵送されてきたことから発覚したものだ。流出したと思われる個人情報には,氏名,住所,生年月日,電話番号,職業,職名,年収,取引銀行/口座番号約600件が含まれていた。

 農林水産省が所管する分野には,農林水産業,食品製造・流通業,外食産業,農業協同組合,森林組合,水産業協同組合,農薬・肥料メーカーなどのほか,農産物商品取引に関わる企業も含まれる。商品先物取引制度は農林水産省と経済産業省の共管分野であり,日進貿易は両省から報告徴収を求められた。

 世界全体の商品先物取引市場は出来高が急拡大している。バイオエタノールの原料となる穀物の価格高騰などを見ればわかるように,環境対策の観点からも農産物取引への関心が高まっている。しかしながら,日本国内の商品先物市場は縮小傾向にあり,取引に係る消費者トラブルが続くなど厳しい状況が続いている(「産業構造審議会商品取引所分科会「今後の商品先物市場のあり方について(中間整理)」の公表について」参照)。農産物取引市場における顧客の個人情報管理は,日本の市場活性化および国際競争力強化に関わるテーマであり,業界全体としての継続的改善が求められる。

農林水産分野の個人情報管理は「食の安全・安心」の共通基盤に

 過去に内閣府の国民生活審議会個人情報保護部会で公表された資料を見ると,農林水産省により集計された事業者からの個人情報漏えい等の事案件数(( )内は全府省合計件数)は下記のようになっている。

 各年度の全府省合計の個人情報漏えい件数に占める農林水産省集計件数の比率を見ると,0.5%,5.7%,12.8%と年を追うごとに上がっている。農産物取引市場だけでなく農林水産分野全体の個人情報保護対策が重要な課題となっていることに注目しておこう。

 昨今の食品表示偽装事件や加工食品農薬混入事件を受けて,国民の「食の安全・安心」に対する関心が高まり,トレーサビリティシステムを利用した生産者,製造・流通業者,一般消費者の間の情報連携に対するニーズも急増している。業界・業種の枠を超えたバリューチェーンが構築されると,個人情報が含むデータがシステムを行き交うケースも増えてくる。「食の安全・安心」の共通基盤として,農林水産分野の個人情報保護対策を見直す必要がありそうだ。

 次回は,紛失・盗難による個人情報漏えい事件を取り上げたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/