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 新生NHKに求められる課題として前回は,職員の意識改革と組織の在り方や,改正放送法の成立で本格展開が可能になったアーカイブス・オンデマンド(AOD)事業などを取り上げた。2回目の今回は,2011年以降のBS放送の在り方と,国際放送への取り組みについて考える。


 NHKはこれまで20年にわたり,準基幹放送としてのBS放送の普及に努めてきた。しかし,2007年11月末に放送を終了したBSアナログ放送(BS第9チャンネル,MUSEハイビジョン放送)のように,BSデジタル放送のハイビジョン放送(BS-hi)も2011年までには,普及のための放送の役割が終わるというのがNHKの経営サイドの認識である。


大胆な発想の転換が必要なBS放送の在り方

 そして現在,総務省の「NHKの衛星放送の保有チャンネル数の在り方に関する研究会」の場で,衛星第1チャンネル(BS-1)と同第2チャンネル(BS-2)の将来像についての検討が進んでいる。2008年1月30日に開催された同研究会の第5回会合ではNHKから,「BS-1と BS-2をハイビジョン化して,前者をニュースやスポーツなどで編成し,後者を文化,芸能,娯楽などで編成したい」という意見表明がなされた。

 現在NHKはBS-1とBS-2,BS-hiの3チャンネルで,合計44スロットの周波数帯域を使用している。BS-1とBS-2をハイビジョン化する場合にはデータ放送なども行うことを前提に合計48スロットの帯域,すなわちBSのトランスポンダ(電波中継器)1本を使用する必要があると考えている。

 2011年以降に実施するNHKのBS放送の在り方を考えるうえで重要なのは,占有するスロット数である。初めからいたずらに,チャンネル数を制限するのはナンセンスである。現在でもNHKのBS放送の1系統(BS-2)は,地上波放送の難視聴解消のためと位置付けられている。MPEG-2エンコーダーの技術革新により,ある程度のデータ放送と3チャンネルのハイビジョン放送が,トラポン1本の帯域(48スロット)の中で提供可能なことは,既に公知の事実である。さらに,地上デジタル放送のセーフティーネットとして今後,BSの第17チャンネルを使用する検討が行われている。

衛星放送の技術は,より深い感動をもたらす番組開発につながっている
写真●衛星放送の技術は,より深い感動をもたらす番組開発につながっている
「かぐや」の月面撮影の様子を展示した第37回NHK番組技術展より
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 こうした状況を承知のうえで,例えばNHKのBS放送のうち第1チャンネルだけを衛星付加受信料の対象として,半額程度に値下げするような大胆な発想はあり得ないだろうか。その場合に第2チャンネルで地上波放送の総合テレビの,第3チャンネル(現在のBS-hi)で地上波放送の教育テレビの完全同時再送信を行うといったモデルであれば,現在の映画やBS放送だけで放送する音楽番組の制作に伴う著作権処理などの大幅なコストカットが期待できるであろう。送信機器やトラポンのコストダウンも進んでいる昨今の事情も考慮したい点である。


 一方NHKには,放送技術の開発における先導的な役割も期待されている(写真)。「H.264/AVC」による配信のほか,21GHz帯の周波数を利用した「スーパーハイビジョン」の配信実験や開発主体への取り組みといったことも求められていることを付け加えたい。


番組開発が急がれる国際衛星放送分野

 改正放送法が成立したことで,NHKが出資する国際衛星放送会社が2008年春までに設立されることになった。そのためにNHKは,2008年度予算で111億円(今年度予算比で約3割の増加)の費用を計上する。当初の資本金こそ数億円程度といわれているが,日本の文化や技術・IT・マンガなどのコンテンツや国内ニュースを外国人の視点で制作し世界中に配信するには,年間で百億円以上の規模の制作予算が必要とされている。

 NHKは既に,直径2~3m程度のパラボラアンテナを設置すれば世界中で視聴できるノースクランブルのニュースチャンネル「NHKワールドTV」と,地上波放送の総合テレビの番組を中心に編成した在外日本人向けのスクランブル放送「NHKワールド・プレミアム」という二つの国際衛星放送チャンネルを運用している。

 新しい国際放送チャンネルでは,世界中で共通の話題である環境や資源,IT技術,もの作り,安全保障などをテーマにした番組を,グローバルな視点でどのように制作・配信するかが課題になる。そのために,NHKエンタープライズやNHK情報ネットワークといった子会社のノウハウを,新しい衛星放送会社で活用するような議論も必要であろう。

 またNHKが新しく行う国際放送では,米エコスターなど北米の衛星放送やケーブルテレビ(CATV)で7万世帯あまりに配信されている「テレビジャパン」や,欧州で日本人向けに有料放送を行っている「JSTV」と全く異なったコンセプトと人材が求められている。民間の出資スキームの議論や番組開発も焦点となってきている。国際放送の充実については福地茂雄会長や古森重隆経営委員長,増田寛也総務相の共通の話題でもある。

 国際間における国民の相互理解や、わが国が経営資源を集中投下して産業再生をかける「次世代テレビ開発」におけるヒントが,国際放送の番組開発やNHK役職員の意識共有,技術開発力にあることは相違ない。液晶テレビにみられるように,韓国の代名詞になってしまった「テレビ産業」の姿をどう考えていくのかといった視点で,国際放送番組の配信スキームに関する議論が深まることを望みたい。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。