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 日本の使用済み家電やパソコンが, 中国や東南アジアに年間数百万台も流れ込み, 現地に深刻な環境汚染をもたらしている。このため政府は国内のリサイクル制度を見直し,使用済みパソコンなどの国内での回収量を増やそうと手を打ち始めた(関連記事)。しかし,日本の排出責任が問われるべき場面は,使用済み製品の流出だけにとどまらない。

 中国や台湾などの東アジア,タイやマレーシアなどの東南アジアには, 日本の電子機器メーカーや半導体メーカーが数多く(2005年現在で866社)進出している。こうした日系企業の工場が排出するICくずや基板くずなどの貴金属スクラップの多くが中国に流れ込み, 環境汚染の原因になっているというのだ。

ブローカーに横流しするケースも

 環境コンサルティングを手がけるリサイクルワンは, 2005年に経産省の委託を受け, 先の866社を対象に, 現地工場の廃棄物処理およびリサイクルの実態調査を行った。その結果, ずさんな処理実態が明らかになったという(図1)。

図1●アジアに進出している日系企業の廃棄・リサイクルにおける課題
中国,香港,韓国,台湾,マレーシア,シンガポール,タイ,フィリピン,インドネシア,ベトナムに進出している日系の電子機器メーカーと半導体メーカーの合計866社を対象にアンケート調査を実施した。回収率は約3割。経産省「アジア進出日系企業における廃棄物等の処理・リサイクルの実態に関する調査」(2006年3月)をもとに作成。

 「現地に適正な再資源化事業者がいない」, 「リサイクルコストが高い」などの課題を抱えるところが多く,特に中国に進出している企業においては,約半数が「委託後の処理状況を把握できない」と答えている。「現地工場の廃棄物担当者が, 不正なブローカーにスクラップを流しているケースもあった」と, 調査を手がけた同社取締役の本田大作氏は話す。

 現地工場が排出したICくずなどの貴金属スクラップの多くは,中国へ輸出されている。「中国では輸入したプリント基板類をドラム缶で野焼きし, 精錬しているのが実態。溶け出した鉛は土壌に垂れ流しの状態で,付近の河川をひどく汚染している」と, 本田氏は惨状を語る。

 日本の電子機器メーカーは, 国内工場の廃棄や再資源化については, 本社の環境部の監督の下, 適正な再資源化業者を選定してスクラップを引き渡したり, マニフェスト管理を徹底するなどの対応を取っている。しかし東南アジアの工場となると,その管理実態は全くお寒い状況だ。

 日系企業が排出するICくずなどの貴金属スクラップは, もともと日本から持ち込んだ部品や基板材を加工する工程で発生したものが多い。「せめて日本から送り出した分だけでも, 日本できちんと再資源化するべきだろう」と本田氏は考える。

アジアのリサイクル資源を日本に還流

 同じ問題を, 資源問題から見ると大きなチャンスになると本田氏は言う。

 「タイ, シンガポール, マレーシアなどのアジアの主要港からは年間2800億円もの貴金属スクラップが輸出され, その大半が中国へ, 一部が欧米に流れ込んでいる(図2)。これを日本に輸入することができれば, 国内の再資源化市場の活性化につながるはず」と, 本田氏は期待を込める。だが2005年にアジアからの貴金属スクラップの輸入実績はわずか28件, 1万4000tに過ぎない。

図2●アジアの貴金属スクラップの流れ
シンガポール, マレーシアなどのアジアの主要港からは年間2800億円もの貴金属スクラップが輸出され,その8割以上が中国に流れ込んでいる。

 一般に, 日本のバーゼル法(有害廃棄物の国境を越える移動に関する規制)に基づく手続きが他国に比べて非常に煩雑なため, 日本ではリサイクル原料の輸入が進まないと言われている。その実態を明らかにするため, リサイクルワンでは2007年に経産省の委託を受けて, シンガポールからの貴金属スクラップ輸入の実証実験を行った。貴金属スクラップ18tをシンガポールで買い付け, コンテナで北九州の響灘コンテナターミナルまで運搬したケースについて検証を進めた(図3)。

図3●シンガポールで買い付けた貴金属スクラップ

 結果はかなり厳しいものだった。バーゼル条約に基づく輸入手続きにほぼ6カ月を要し, その間のスクラップの保管費用(倉庫代)が輸入コスト全体の約7割を占めた。「中国ではバーゼル手続きが無いも同然。香港経由で何でも国内に入れてしまう」(金属精錬会社の幹部)ことから, 中国の輸入事業者に太刀打ちできるわけがない。

 「環境省管轄の窓口に2カ所, 経産省管轄の窓口に2カ所, 合計4カ所で手続きを行わねばならいのがネック。手続きを1カ月に短縮できるようにバーゼル手続きを簡素化すべきと, 環境省と経産省に提案した」と本田氏は話す。このほか, 日本でのスクラップの受け入れ施設を予め認定しておく(登録制), バーゼル手続きを電子化して効率化するなどの改善策が考えられるという。
 
 だが問題の本質は,グローバルな資源循環の道筋をどうつけるかにある。ここにきて日本の再資源化事業者が,シンガポールなどに営業拠点を開設し,スクラップの獲得に乗り出す動きがあるのは注目すべきだ。しかし, ものづくりを行なうメーカー(動脈)と,使用済み製品を処理する再資源化事業者(静脈)が連携してはじめて資源循環ルートが出来上がる。

 日本の半導体メーカーや電子機器メーカーは, 進出先のアジア企業の排出責任にもっと目を向け, 社会的責任の観点からも適正な資源循環に取り組むべきではないか。例えば, 日系企業が共同で,各工場から排出される貴金属スクラップを回収し, 日本でレアメタルを含む高度な再資源化を行うといったことが考えられる。メーカーと流通事業者, 再資源化事業者などが連携することで“グローバル静脈物流”の道筋が見えてくるはずだ。