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日本のECは質的に貧相で,小さな成果しか生み出せていない。その根本的な原因は,受発注業務の効率化ばかりに目を向け,経営戦略とECを連携させる視点が欠けているためだ。では,ECを戦略的に利活用するには,どうすればいいのか。日米のEC先進企業への調査から,6領域・30の目的別に「セオリー」と呼べるものを明らかにした。

歌代 豊



 前回の『日米比較調査が示す「日本型ECの弱点」』では,電子商取引(EC)に関する日米の事例調査の結果から,日本企業におけるECの課題を示した。日本のECは,規模的には世界最高水準といえるが,質的側面や成果の大きさでは米国に遠く及ばない。「質的転換」が不可欠といえる。事業戦略の観点からECを活用し,成果に結びつけることを志向すべきである。

 そのためには,ECを戦略的にどう利用していけば成果を上げられるか,という「事業成果の創出メカニズム」を理解し,その観点からECをマネジメントしていくことが求められる。

 本連載のベースとなっている次世代電子商取引推進協議会(ECOM)の調査研究では,日米企業の事例調査などを通じて,ECで成果を上げている企業のベストプラクティスを抽出した。これらを精査し,モデル化することで,「事業成果の創出メカニズム」を明らかにした。ECの質的転換を目指す企業やECシステムの企画担当者らにとって,有益な指針となるだろう。

ECの適用領域と発展方向

 事業成果の創出メカニズムを体系化するに当たり,ECの領域(ドメイン)を6つに分類した(図1)。ECのドメインによって,企業が参考にすべきメカニズムが異なるからだ。分類は,ECにより交換・共有する「情報」の種類と,調達か販売かという「業務」の種類によるマトリクスになっている。

図1●6つのECドメイン
図1●6つのECドメイン

 「情報」の種類については,ECで対象とする情報を幅広く考え,交換・共有する情報の範囲を(1)取引情報,(2)生産販売在庫情報,(3)開発・設計情報の3段階に分類した。これはECの発展段階を示すものでもある(図2)。最近のECには,企業をまたがる情報共有やビジネス・プロセスのスピードアップが求められる。受発注処理をネットワーク化するだけだと,ECの効果は自ずと限定されてしまう。

図2●企業間の交換情報とECの発展方向
図2●企業間の交換情報とECの発展方向

(1)取引情報
 取引情報は,受発注に必要な製品の価格・数量に加え,それに付随する受発注前後の各種情報を指す。ECで最も基本的な情報である。受発注前では,製品情報の入手/提供および見積もり/商談/取り次ぎに関する各種情報が対象となる。受発注時では受発注予約および確定受発注情報が対象となる。受発注後では納品/請求/決済などに関する情報が対象となる。

(2)生産販売在庫情報
 生産販売在庫情報は,需要計画,生産計画,在庫情報および生産進捗情報を指す。サプライチェーン・マネジメント(SCM)などに取り組む場合に必要な情報だ。受発注前では発注側の需要や,受注側の生産,在庫に関する予測・計画・実績情報が対象になる。受発注後では生産進捗情報が対象となる。

(3)開発・設計情報
 開発・設計情報は,製品の設計開発に関連する各種の情報を指す。製品ロードマップなどに見られるような,将来にわたる製品の開発情報や,製品の詳細設計情報などが対象となる。戦略的なビジネス・プロセスを構築するような場合にこれらの情報を利用する。

 伝統的なECは受発注情報を電子媒体で交換することを指していたが,受発注情報から取引情報全般に,さらに生産販売在庫情報,開発・設計情報というように,企業間で交換・共有する情報は拡大している。ECは「電子的媒体による取引プロセスの革新手段」として位置付けるべき存在になったといえる。