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 今年は株価の乱高下に振り回される一年になりそうです。乱高下の「下」のときに期末決算を迎えたら,「有価証券の減損処理をどうするか」といったことに頭を抱える会社が多くなることでしょう。

「有価証券の場合,時価評価と減損処理って,違うんですか?」

 そういう素朴な疑問って大切ですね。大雑把な考えかたとしては,「売買目的の有価証券」は常に時価で評価し,「その他の有価証券」は減損処理で対応する,と理解しておけばいいですよ。ただし,「この銘柄は『売買目的の有価証券』である」と主張するためには,有価証券売買を会社の定款で定め,社内にトレーディング業務を行なう専門部署を設けていることが条件ですから,ほとんどの会社が保有している有価証券は「その他」に該当します。

「有価証券で『その他』の場合,株価が半分ぐらいまで下落したら減損処理が必要,という話を聞きますが」

 下落の程度が問題ですね。例えば,持ち合い関係で仕方なく,上場株式を10万円保有しているとしましょう。日本公認会計士協会の『金融商品会計に関する実務指針』によれば,減損処理を要するかどうかの基準となる「下落の程度」は次のように分類されます()。

表●上場株式10万円に対する減損処理の基準
下落の程度 判断基準
株価が5万円未満になった
(下落率50%以上)
著しい下落に該当。合理的な反証がない限り,減損処理を行なう
株価が5万円以上7万円未満の間にある
(下落率30%以上50%未満)
各社で,時価が著しく下落したと判断するための合理的な基準を設けて判断する
株価は7万円以上を保っている
(下落率30%未満)
一般的には著しい下落には該当しない

 表右の「判断基準」には「合理的な反証」や「合理的な基準」といった曖昧な表現があります。こうした表現で対応せざるを得ないところに,表左にある「下落の程度」の難しさがあります。

 先ほどの上場株式10万円について,売買目的で「投資」していてその時価が6万円にまで下落したのなら,4万円の損失を損益計算書へ計上することに躊躇(ちゅうちょ)はないでしょう。ところが,持ち合い関係で保有している「その他の有価証券」は,仕事を受注するための「保険」みたいなもの。4万円を損失として認識するのは,株式投資がいくら自己責任とはいえ,「納得いかない」ケースが多いといえるでしょう。

「同じ4万円の損失といっても,損失に対する『気分』が異なるんですねぇ」

 残念ながら,現在の会計制度は,そうした「気分」までは察してくれず,「合理的」で片づけてしまっているようです。ただし,ここでちょっと考えて欲しいのは「投資」や「保険」といった用語で連想するものはないですか,ということです。

「ミクロ経済学の『不確実性理論』にありましたね」
その通りです。

 不確実性理論に従えば,売買目的の有価証券は「危険愛好的」であり,少々の損失にもへこたれず,時価評価もすんなりと受け入れられます。それに対し,持ち合い株式などは「危険回避的」な性格を強く持ちますから,減損処理に抵抗を感じます。

リスクに対する解釈は一意性ではない

 そうした気持ちをうまく指標化したのが,経済学で有名な「リスク・プレミアム」という概念です。最近はリスク・プレミアムという用語を頻繁に見かけるようになり,それとともに「これはどういう意味で用いているのだろう」と首を傾げたくなる例が多くなりました。

 拙著『戦略会計入門』316ページでは,売掛金と貸倒引当金を引き合いに出して,機会原価曲線を描き,貸し倒れに係るリスク・プレミアムを説明しています。さらに同318ページでは,このリスク・プレミアムを企業の立場から見ると機会利得,会計監査を行なう立場(公認会計士など)から見ると機会損失である,としています。一口にプレミアムといっても,リスクに対する解釈は一意性ではないのです。使い慣れない用語を使うときは,十分な配慮が必要です。

 このリスク・プレミアムの概念は,コスト管理に適用するとさらに輝きを増します。前掲書323ページで,製造間接費予算に機会原価曲線を描いているのは,そうした趣旨です。

 例えば,コストダウンというと危険回避的な動機が強く働き,価格の安い原材料に切り替えたり,作業時間を短縮したり,といったことに目が向いていませんか。それでは現場は畏縮してしまいます。研究開発活動をはじめとして,現場では,ある程度の危険愛好的な要素,つまり「あそび」を許容することも重要です。その許容度をどこまで認めるかが,コスト管理におけるリスク・プレミアムになります。

 標準原価と実際原価の差(原価差異)が有利か不利かも,IT時代に相応(ふさわ)しく,プレミアムの幅で議論したいものです。


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■高田 直芳 (たかだ なおよし)

【略歴】
 公認会計士。某都市銀行から某監査法人を経て,現在,栃木県小山市で高田公認会計士税理士事務所と,CPA Factory Co.,Ltd.を経営。

【著書】
 「明快!経営分析バイブル」(講談社),「連結キャッシュフロー会計・最短マスターマニュアル」「株式公開・最短実現マニュアル」(共に明日香出版社),「[決定版]ほんとうにわかる経営分析」「[決定版]ほんとうにわかる管理会計&戦略会計」(共にPHP研究所)など。

【ホームページ】
事務所のホームページ「麦わら坊の会計雑学講座」
http://www2s.biglobe.ne.jp/~njtakada/