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あらゆるシステム開発プロジェクトは,契約に基づいて実施する。そこで重要になるのが,適切な契約書の作成や契約履行状況のユーザー企業への報告など,契約に関する様々なプロセスを実施する「契約管理」である。ユーザー企業との無用なトラブルを避けるためにも,契約管理の各プロセスをしっかり実施して欲しい。

布川 薫/日本IBM

 基礎理論編も,いよいよ最後のセッション――「プロジェクトの契約管理」に入る。契約管理(コントラクト・マネジメント)とは,契約締結から契約完了に至る契約履行期間中に発注者(ユーザー企業)と協調しながら実施する,契約にかかわる様々なプロセスのことだ。プロジェクトを円滑に進めるためには欠かせない極めて重要な作業なので,正確に理解して欲しい。

主契約と2次契約がある

 システム開発プロジェクトにおける主な契約としては,「主契約(プライム・コントラクト)」と「2次契約(サブ・コントラクト)がある(図1)。

図1●システム開発プロジェクトにおける契約の構造
図1●システム開発プロジェクトにおける契約の構造

 主契約は,プロジェクトのスポンサーであり発注者であるユーザー企業と,プロジェクトを実施する担当組織(ITベンダー)間の契約のことである。主契約の受注者を「主契約者(プライム・コントラクタ)」と呼ぶ。

 主契約者は,自社だけではまかないきれない人的・技術的リソースを補うため,開発の一部を外部に委託することがある。このときに発生するのが,主契約者と外部のソフト開発会社の間で結ばれる2次契約である。2次契約の受注者を「2次契約者(サブ・コントラクタ)」と呼ぶ。現実にはこの延長線上に,いわゆる「孫請け」が存在することもある。

 以下では主契約,すなわちユーザー企業とITベンダー間の契約を中心に,契約管理の説明を進めていく。

あいまいな契約は禁物

 システム開発プロジェクトでは通常,契約締結の前にプロジェクトの発注者であるユーザー企業がRFP(提案依頼書)を作成する。主契約者における契約管理の最初のプロセスは,RFPに記載された内容を十分に理解することである。

 RFPには一般に,システムの基本要件やプロジェクトの範囲,依頼事項,契約の条件などが記載されている(図2)。これを,企業の方針や規定に則ってしっかりと分析し,その結果に基づいて契約準備を進めるかどうかの意思決定を行う。

図2●RFP(提案依頼書)に記載される事項の例
図2●RFP(提案依頼書)に記載される事項の例

 契約を進めることを決定した場合は,当該案件に関する提案書(Proposal)を作成してユーザー企業に提案する。提案が受け入れられれば,RFPや提案書を基にユーザー企業と交渉しながら契約内容をより具体的なものにし,正式な契約書を作成する。この際,請負や委任(法的には準委任),派遣といった契約の種類とその特性を十分に理解したうえで,適切な契約形態を選択しなければならない(契約の種類についてはキーワード解説を参照)。

 言うまでもないことだが,システム開発プロジェクトではあいまいで不明確な契約は禁物である。契約内容が不明確なままだと,ユーザー企業との間で頻繁にトラブルが発生する可能性が高い。これでは円滑にプロジェクトを進めることができない。

 契約で明らかにしておかなければならない主な項目には,作業内容とスケジュール,納入する成果物,金額と支払い条件,契約の完了条件と検収要件,共同レビューや検収の実施時期,契約変更に関する取り決め,ユーザー企業とベンダー側の役割分担などがある。

 特に,ユーザー企業との役割分担の記載(SOW:Statement Of Work)は必須である(表1)。役割分担が不明確なために,「この作業はベンダーがやるべきことなのになぜやらないのか」,「いやユーザー企業の仕事だろう」と,お互いの間に不信,不満が生まれ,プロジェクトがうまく進まないケースはよくある。これは両者にとって極めて不幸な事態である。分担を明確に決めるのは骨が折れる作業だが,それだけの価値があると考えて欲しい。

表1●契約で決めておくべき,プロジェクト作業の範囲・内容・役割分担の例
表1●契約で決めておくべき,プロジェクト作業の範囲・内容・役割分担の例

 さらに,成果物/納入物の著作権や特許権などの知的財産権の帰属と,設計・開発の過程で生じるアイデア/ノウハウ/コンセプトの扱いをどうするかも,契約書に記載すべきだ。特に著作権に関しては,保護期間が長いため,将来にわたって問題が発生しないよう特別な注意が必要である。このほか,必要に応じて機密保持義務や特別なパフォーマンス要件についても記載しておく。

 契約書に記載すべき内容についてより詳しく知りたい人は,情報サービス産業協会が作成した「JISAソフトウェア開発委託モデル契約(平成6年12月版)」や「JISAソフトウェア開発委託モデル契約(平成14年5月版)」,日本電子工業振興協会が編集した「ソフトウェア開発 モデル契約解説書」(コンピュータ・エージ社発行),経済産業省の「モデル取引・契約書」などを参照するとよいだろう。

 契約書を作成したら,法務部門の承認を得るなど自社の規定に則った手続きを取り,契約を締結する。

 契約を締結した後も,なんらかの特別な事情で契約履行にかかわる状況が変化し,契約内容を変更せざるを得ないことがある。例えば,「関連する法律や制度の施行時期が当初の予定より大きくずれ込んだため,新システムの稼働スケジュールを変えなくてはならない」,「要件分析の結果,開発の対象範囲を大きく変えなくてはならない」といった場合だ。

 こうしたケースでは,ユーザー企業と十分に協議し,契約変更を繰り返さないための工夫や類似の状況変化が起こってもそれを吸収できる対策を行ったうえで,正式な手続きのもとに契約変更を行う。契約変更を口頭での約束で済ますことは,絶対に避けなければならない。