2回目となる今回は,宇宙通信(SCC)を買収することによって日本の通信衛星ビジネスで独占事業体になったスカパーJSATグループが,放送が完全にデジタル化される2011年までの期間をいかに乗り切るかについての課題を整理してみる。
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写真●日本テレビ放送網のイベント「デジテク2008」(3月12~14日に開催)で展示された「CS日本」のブース。4月からスカイパーフェクTV!で,「ファッションTV」を放送することをアピールしていた [画像のクリックで拡大表示] |
2008年3月12日の電波監理審議会の答申によって,地上アナログ放送と同じ2011年7月24日までにBSアナログ放送が終了することが事実上決まった。これを受けてWOWOWは,デジタル放送への加入者の誘導策や加入手法の見直しなどの対策に乗り出す。一方,通信サービスに目を転じれば今年中に,FTTH(ファイバー・ツー・ザ・ホーム)サービスの契約世帯が,ADSL(非対称デジタル加入者線)サービスの契約世帯を逆転するだろう。3月末に始まるNTTグループの次世代ネットワーク(NGN)の商用サービスでは,地上デジタル放送を再送信することが現実的になってきた。
衛星放送もインターネットも高画質化へ
大容量伝送が可能な通信インフラで高画質映像が一斉に伝送される時代への突入は,東経124・128度CS放送「スカイパーフェクTV!」も高画質化しなければ,視聴者ニーズを満たせない恐れがある。今秋にもHDTV(ハイビジョン)放送を開始するのは,こういった背景からだ。符号化方式に「H.264/AVC」を採用し,1チャンネル当たり10Mb/sを大きく下回る伝送レートでHDTV画質のテレビ番組を配信する予定である。
東経110度CS放送「e2 by スカパー!」のHDTVチャンネルは「MPEG-2」で符号化されて伝送されるのに対して,スカイパーフェクTV!のHDTV放送では,より高圧縮でトランスポンダ(電波中継器)を有効活用できるH.264を採用し,より高度な多重化に最適化した「DVB-S2」方式を変調方式に用いるのも特徴的である。H.264はNGNの商用サービスでも多用されるもようで,「NTTぷらら」が提供を予定している「ひかりTV」サービスがそれに当たる。
新たな受信機の普及策をどうするのか
こうした状況のなかで,スカイパーフェクTV!でHDTV放送を開始するスカパーJSATグループにとってまずは,長期にわたりスカイパーフェクTV!用受信機を使用している加入者に対して,上位互換機であるHDTV対応受信機への取り替え誘導策が考えられよう。負担額にもよるが,エアチェックが可能なHDDによるPVR(パーソナルビデオレコーダー)機能を内蔵したタイプであれば,50万台ぐらいが初期の普及目標と考えられるのではないかと感じる。老朽化したアンテナの点検や交換も課題であり,代理店周りのケアとコスト負担も焦点となってくる。劣化したICカードの交換に伴うアフターサービスも重要課題である。
そして大事なことは,「2台目のテレビ」として気軽に高画質の多チャンネル放送を楽しめるサービスへのアップグレードである。寝室や子供部屋での視聴という意味では,新サービスの受信機を内蔵した液晶テレビなどの開発は必須であろう。その製造コストの負担は小さくはないだろうが,NGNをはじめとするインターネット系の端末までもが居間に入ろうとしている時代である。やはり「これは楽だ,これは便利だ」と感じるインセンティブがなければ、新サービスの大きな普及は困難である。
エンドユーザーの立場に返る
有料放送の大きなマーケットはおそらく,オンデマンド性のあるものにシフトしていくだろう。一方、ケーブルテレビ(CATV)大手のジュピターテレコム(JCOM)も,NGNに対抗した高速インターネットサービスを全国展開する計画である。またCATVについては,通勤実態や文化圏としての認知などを基準にして,一部の隣接県の区域外再送信を認める方向性を総務省が示しており,その優位性はなかなか崩せないかもしれない。
NHKも改正放送法が施行される翌日の4月2日に,アクトビラなどを通じて「アーカイブスオンデマンド」(AOD)サービスを,数百タイトルにわたって有料で提供するという発表を行う予定がある。スカパーJSATを取り巻く競争環境は,いっそう厳しくなる一方だ。だからこそ,エンドユーザーに画期的,かつ徹底的に訴求するサービスイメージが求められている。米国ではPVR事業者として代表的なTiVoが,YouTubeを受信・視聴できるサービスを始めるとの報道にも接したところである。
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