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 システム構築の現場は,人と人とのコミュニケーションの場でもあり,ヒアリングや報告などさまざまな目的の会議がたくさん開かれる。そこで問題となるのが「議事録」だ。会議の議事録の取り方を観察していると,実に様々な流儀・方法を目にすることができる。

 時々見かけるのが会議をすべて録音して,後日,誰かがほとんど1日費やして聞きなおしてすべて書き出すというもの。出来上がった議事録は数ページに及び,それを関係者に配ったとしても誰も見ようとはしない。それほどに冗長な議事録ではなくても,議題ごとに誰が何と言ったかについて克明に記述された議事録はよく目にする。

 第一話で登場したIさんは要求定義ヒアリングのプロであるだけでなく,議事録のプロでもある。Iさんに「議事録の書き方はどうしたらいいか」と尋ねると,「決まったことだけ書いてください。それ以外は基本的にいらないといっていいでしょう」と言い切る。

 会議の場では様々なことについて発言がなされる。その内容が「報告」である場合は,大概,報告内容に関わる資料が使われるから,議事録でわざわざ同じ内容を記述する必要はないわけだ。

 会議の場では,出席者の一人ひとりが言いたいことを言い合う場面がある。しかし,そのほとんどは「言っただけ」であり「聞いただけ」であるので,記録を取ってまで保存したり,そこにいなかった誰かに伝えたりする必要はない。これも記録する必要はない。録音した内容を地道に書き出す作業をしてみるとよく分かるが,発言の大半は「誰々が何を言った」だけであることに気付くものだ。

 このようにして,「決定事項」しか書かないようにすると,ほとんどの会議の議事録は1ページ以内になる。一般に「決定事項」は,関係者の利害に関わることがらでもあるので,誰もが興味を持って目を通すことになり,議事録がコミュニケーションの道具として機能するようになるわけである。

 このような議事録の書き方をすると,何も決まらなかった会議については議事録の内容がほとんど存在しないことになる。唯一の決定事項は「次回の日程」だったという皮肉のような議事録が残ることになるが,そんな会議は決して少なくない。

 数年前,ある自動車メーカーのプロジェクトのお手伝いをしたとき,その会社で作られていた議事録にもプロらしい技が光っていた。会議が始まる前に既に議事録のフォームが用意されていて,その日の会議で決定すべき項目が列挙してあり,どう決まったかを書くところだけが空欄になっていた。会議は,このフォームが全員に配られるところから始まる。会議の参加者に「何を決めたいか」が伝わるようになっているのである。

 議事が進行し,予定された空欄がすべて決定事項に埋められたとき,議長は会議の終了を宣言するのだった。この会社では,会議の参加者の誰もが「決める」つもりで臨んでいるため,議論の内容に無駄がない。そして,会議は常に予定時刻よりも早くに終了し,会議が終了したその瞬間に議事録も完成しているのだった。

木村 哲(きむら てつ)
ビーコンIT
コンサルティング部 チーフコンサルタント
1980年にIT業界入りし,パッケージ・ソフトウエアの販売を担当。1992年頃よりデータ・ウエアハウス,ビジネス・インテリジェンスの分野の事業を担当し,多数のパッケージソフトの輸入,企業導入を行う。2000年よりコンサルティング事業にかかわり,立場をそれまでのRFPを受けて提案する側から,要件定義/RFP作成をする発注側に転じる。発注する側,受ける側の両方の視点に立ったプロジェクト・マネジメントを得意とする。

■本特集に関連して,日経SYSTEMS 2008年4月号に特集「プロフェッショナルの現場 ユーザーに尽くし,ユーザーに信頼される」を掲載しています。ぜひ併せてお読みください。