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 政府が多大な税金を投入して構築した「住民基本台帳カード(住基カード)」も「e-Tax」も、実情はお蔵入りというかIT不良資産化しているようだ。

 4年目となる目玉のe-Taxは納税申告者の3%にしか利用されていないという。政府も状況を見過ごせず、昨年も今年も“ニンジン”をぶら下げた。5000円の税額控除と添付書類が不要となる特典だ。e-Taxで申告するには住基カードが必須で、二兎を追う狙いが込められている。

 そこで昨年は見送ったものの、今年は挑戦してみようという勇敢なIT業界の人々が、筆者の周りから何人か出てきた。そうした人々の奮戦記を、今回は再現してみよう。まずはA氏の場合である。

 A氏は最初、e-Taxのマニュアルをダウンロード。全体プロセスの理解から始めようとした。しかしマニュアルを読んでいくと、「XX参照」が何度も出てくる。これでは普通の人は嫌になるだろう。1冊のマニュアルで一気通貫に分からせる工夫がないからだ。

 次にA氏が行ったのは、公的個人認証(電子認証)の手続きだ。地元の出張所でできるはずだったが、実際には住基カード発行の出張所に出向くことになった。窓口の役人は個人認証について確かに精通していた。しかしe-Tax利用の留意点を聞くと「?」。ついでに「確定申告は書類の方が面倒ありませんよ。税務署は添付書類など見ませんよ」と話されたという。なお、住基カードを持っていない人は、入手の手続きから始めるために申請と受け取りで2日かかるようだ。

 住基カードを所有していたA氏だったが、5年前に取得したカードだったためか、これには電子認証の仕組みを書き込めない、と言われたという。電子認証の手続きのためには、出張所から区役所に出向いて新しいカードを発行してもらい、電子認証の仕組みを書き込むしかないとのこと。

 結局、A氏は区役所までタクシーで行く。そこで新カードと電子認証のクライアント用ソフトをCD-ROMで支給された。A氏は最後に量販店に行き、3000円のICカードリーダー/ライターを買う。ここまでが開始に至る準備の話だ。

 自宅で電子認証のクライアント用ソフトを、自らのパソコンにインストール。送信・申請の確認まで10段階の作業があった。しかし更正通知があった場合の操作や書類の変更方法、ミス送信のリカバリーはまったく分からなかった。

 A氏と同様に挑戦した人の声もまとめると、「不安先行で、まだ使い物にならない」という意見で一致した。例えばBさんは、「所轄の税務署へ訪問2回と電話による問い合わせが3回、e-Taxのヘルプデスクへの電話が2回、質問コーナーへのメールを2回と、右往左往しながらの作業だった。膨大な労力と時間を費やしたので、『何がダメなのか』を具体的に指摘した資料を国税庁へ送りつけたい」とコメント。まさに「ご苦労様でした」としか言いようがない。

 こうして実際にやってみると、e-Taxが普及しない大きな原因は、システム以前の問題のようだ。つまり税務署や政府の硬直した組織とプロセスに根本的な原因があるのだろう。

 日本の税金制度は複雑で、それぞれの手続きは個別で脈絡がない。どこかレガシーシステムに似ている。役所の中で各担当が「サイロ状態」で仕組みを作ってきたのか、なかなかワンストップサービスにならない。

 だからe-Taxを利用しようとすると、手続きが区役所と税務署にまたがるなど、不都合や修正、更正(納税金額修正)が起こると手間が二度も三度になりかねない。しかも個人の場合、e-Taxを利用するのは1年に一度しかないから、生産性向上は期待できないだろう。生産性向上のメリットは税務署の方にあると思うが、e-Taxのおかげで業務効率がよくなったという話はまだ聞いたことがない。これでは何のためのe-Taxなのかと疑いたくなる。