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 2008 Media Summit New Yorkには,Web2.0系といわれる企業も参加していた。マスメディアのセッションとWeb2.0系のセッションを聞いていると,Webへの期待が両者で異なっているように見えた。第2回で紹介したように,メディア・コングロマリット企業はWebをコンテンツ・ウィンドウと捉え,双方向性やCGMを重視していない(写真)。

写真●米IBMなどが登壇した技術がエンターテイメントに与える影響に関するセッション
写真●米IBMなどが登壇した技術がエンターテイメントに与える影響に関するセッション

 一方,Web2.0系企業の人々は,双方向性を持つWebで自由にカスタマイズできることが,新たなコンテンツを生み出す原動力になると考えている。こうした考え方の違いは,言葉一つを取っても現れている。Web2.0系業界の人々は「メディア」という言葉は使わずに,「プラットフォーム」という言葉を使う。この言葉を使うのは,消費者主導でコンテンツを選ぶというニュアンスを出すためだ。メディアという言葉は,提供者主導の巨大なマスメディア企業のイメージを強く含んでいる。

 Web2.0系に属する企業は,インターネット上のプラットフォームは,カスタマイズされた個人メディアの集合体であるという。低コストにユーザー嗜好ごとの小さなコミュニティを作れるため,マーケットをセグメント化する必要のあるコンテンツ提供者,自分の好きな情報を簡単に見つけられる消費者双方にとってメリットがある。

プラットフォームはコンテンツのあり方にも影響する

 米IBMのスティーブン・エイブラハム氏は,セッション中に「プラットフォームは大事である(Platform matters)」と述べた。マスメディアは同じコンテンツをテレビでもWebでも流そうという発想だが,プラットフォームによって求められるコンテンツのあり方が変わる可能性があるという指摘だ。

 エイブラハム氏は「プラットフォームによって,コンテンツの種類,長さなどで何が適切なのかが変わる。結局,消費者の支持を集めたものがデファクト・スタンダードになる」という考えを示した。例えば音楽の場合,1曲約5分,アルバム全体で約60分といった長さがスタンダードだ。しかし,インターネット上ではこれが通用しないかもしれない。

 また,ケーブルテレビ最大手の米コムキャストのサンディ・ワックス氏は,「インターネット上では,メディアに人が集まることを期待してはいけない。コンテンツ側から消費者にアプローチする必要がある」と発言した。マスメディアとWebでは,ユーザーによるコンテンツの消費行動が大きく異なるという指摘だ。

 従来のマスメディアでは,ユーザーは自分の好きそうなコンテンツを流しているメディア(テレビやラジオ)を10~20チャンネルくらいから選択して消費していた。つまり,ユーザーは「ABC」や「CBS」といったメディアに集まる構造だった。

 しかし,現在のマスメディアは時間で番組を編成する手法と消費者行動のズレが大きくなってしまい,ユーザーの支持を失いつつある。ユーザーにとって真に欲しいものはコンテンツそのものである。そのため,消費者がコンテンツを楽しみたいときにいつでも楽しめるような仕組みを,コンテンツ提供者は用意しなければならないという。その一例として,オンデマンド型の配信サービスを挙げていた。

マスメディアとWebでの提携の模索も始まる

 2008 Media Summit New Yorkに登壇したWeb企業には,マスメディアとの提携に積極的な姿勢を示す企業もあった。例えば米AOLのフレッド・マッキンタイア バイス・プレジデントは,「コムキャストのセットトップ・ボックス(STB)に向け,JoostなどWeb2.0企業が配信ソフトウェアを作ってもいい」と発言。AOLも映像検索サービスなどに力をいれており,こうした技術提供をケーブルテレビに対してすることで,ビジネスチャンスが広がる可能性を示した。

 背景には,米ケーブルテレビ最大手のコムキャストがSTBのオープン化を2007年に発表したことがある。マスメディアがWebに進出するには買収が一番早道だが,ここ最近は風向きが変わりつつある。インターネット上では次々とイノベーションが起こる。こうしたスピード感に追いつくには,買収よりも業務提携でWeb企業の企業文化を尊重したほうが得策とマスメディアも気付きはじめた。コムキャストの動きは,そうした方向性の端緒だった。

 もはや,デジタル・イノベーションは旧来型メディア企業の無視できないレベルに達している。2008 Media Summit New Yorkでも,Joostのヘンリク・ヴァードリンCCO(Chief Creative Officer)が「P2P技術でコンテンツの配信コストは格段に安くなる」と改めて主張した。コンテンツの流通コスト低減は,コンテンツ事業者がインターネット配信を選ぶ理由になってくる。旧来メディアの企業が座視できるものではないだろう。

 マスメディアが持つコンテンツがWebを席巻するのか,それともWeb企業の主張するような新しいコンテンツが誕生するのか。また,マスメディアが今後Webメディアを自社傘下にメディアとして取り込むのか,それともWeb企業が独自に生き残るのか,今後の動向が注目される。

志村 一隆(しむら かずたか)氏 情報通信総合研究所 主任研究員
1991年早稲田大学卒業,WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立,代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で,放送,インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA,2005年高知工科大学で博士号を取得。