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 2008 Media Summit New Yorkのセッション中,「Webisode(ウェビソード)」という言葉が多く聞かれた。“Webisodeは,Web上のMini-sode(短いエピソード:エピソードは連続ドラマの各回)のことを言う。Broadband TVの時代には,短尺の映像コンテンツが好まれるという文脈で多く使われていた。

 インターネット上では,短尺の映像コンテンツが支持を集めることは間違いないとされている(NBonline「長尺か短尺か、コンテンツの未来はどっちに転ぶ?」)。移動中や仕事の合間など短い時間での視聴が少なくないと見られているからだ。

 テレビは自宅に設置するもので,決まった時間にソファなどに座ってくつろいで見る場合がほとんどだろう。そのため,ある程度ボリュームのあるコンテンツが好まれる。一方,Web上の動画コンテンツは,携帯電話やノート・パソコンといった持ち運びできる端末を使って見る。自宅であればテレビを見るユーザーも多いため,移動中や外出先で消費者行動のすき間に入り込まなければ,コンテンツの視聴機会は増えない。

 コンテンツを提供する側は,短尺のドラマを制作したり,サッカーのゴール・シーンなど決定的な瞬間だけを見たいニーズに応えたりしていく必要がある。では,どうやってそうした単尺の映像コンテンツをビジネス化(マネタイズ)するのか。ビジネスモデルの検証が,今回のカンファレンスの議論の中心だった。

テレビでは放送枠の25%がCM,一方Web動画は・・・

 コンテンツ制作企業のマネタイズの方法は簡単だ。プラットフォーム企業,メディア企業などに自社コンテンツを販売すればいい。一方,映像配信プラットフォームの企業にとって,ビジネスの拡大はそう簡単ではない。Media Summit New Yorkで行われたパネルディスカッションの壇上でも,「インターネット配信には,テレビと同程度のCMスポット枠がないのではないか」(米国テレビ芸術科学アカデミーのシェリー・パーマー ニューヨーク支部長)という疑念が指摘された。

 現在のテレビでは,1時間の放送枠に対しておよそ25%がCMを流す時間に当てられる。CMの方法には様々ある(注)が,テレビと同じ程度のCM枠を確保できないと,映像配信プラットフォームのビジネスはテレビに比べて小さい市場規模になってしまう。その結果,映像コンテンツ制作も含めた市場全体が縮小に向かう恐れがある。

(注)映像配信の広告スポットは,映像が始まる前にCMを流す「プリロール」,半ばで流す「ミッドロール」,映像にかぶせる「オーバーレイ」などがある。

 このパーマー氏の疑念に,5人いたパネリストから明確な答えは戻ってこなかった。米ニューズとの合弁で映像配信サイト「Hulu」を立ち上げた米NBCユニバーサルのロン・ランプレクト デジタル流通部門シニア・バイス・プレジデントですら,「今は変革期である」と語るにとどまった(関連記事)。

 実際,Hulu上でのCMの扱いを見ると,ビジネス化がうまくいっているようには見えない。見たい番組のファイルをクリックすると,冒頭にCMが1回流れる。筆者が選んだのは15分程度の映像だったが,CMはこの1回だけだった。おそらくテレビであったら,15分の映像の間に3回はCMが流れていただろう。

ビジネス単位の縮小が広告市場の縮小につながる懸念

 Media Summit New Yorkのセッションで頻出した言葉は,「Fragmentation」(細分化),「Finding」(検索),「Relevant」(適切な)といったもの。マスメディア,Webメディアともに,今は「Transition」(移行)の時代にあるという共通認識が形成されていた。

 移行が進んだ5年後の予想としては「提供者主導のサービスから消費者主導のサービスに変わっていく」という意見が多勢を占めた。

 つまり,Webでいう「ディスティネーション・サイト」やテレビの「プライム・タイム」のような,提供者がコンテンツにプライオリティを付けるような概念は崩壊する。こうした概念が崩壊した後は,CGM(consumer generated media),ウィジェット,検索,ビデオ・オン・デマンド,マルチスクリーンを軸としたサービスが台頭するという。

 コンテンツとマスメディアが結びついて発達してきたエンターテイメント映像産業であるが,今後,メディアはさらに分散化,多様化する。一般に,分散化や多様化が進むと,一つひとつのビジネス規模は小さくなる。メディアでは広告単価の縮小として現れ,場合によっては市場全体の縮小にもつながりかねない。マスメディア企業,Webメディア企業が動画配信に抱える課題は,「どうやってCMを流すか」だけではないのだ。

コンテンツと広告はメディアによってすみ分けるか

 ただ,Web動画配信の台頭はビジネス面で悪い話ばかりではない。マスメディアを使ったマス広告,Webを使ったターゲット広告の双方が発展できれば,広告市場全体の成長につながる。コンテンツ自体がマスメディアとWeb動画配信ですみ分ける形になれば,結果として動画コンテンツのニーズ自体を高められる可能性もある。

 2008 Media Summit New Yorkの基調講演において,米CBSのレスリー・ムーンベス社長兼CEOは「スーパーボウル中継に挿入されるCM枠の盛り上がりを見れば,まだまだマスメディアを悲観することはない」と語った。これはその通りで,報道,スポーツ生中継など時間の共有性が高いコンテンツは今後もマスメディアに残るのではないか。広告媒体として見ても,マス広告を担うメディア・ビジネスに一定の役割はあるだろう。

 一方,知識欲に答える教養映像や感動したい欲望を満たすドラマは,報道やスポーツに比べると同時に他人と共有したいというニーズは低いだろう。また,知りたい,泣きたいと思う瞬間は人それぞれ。様々にわき上がるニーズを瞬間に満たすためには,ビデオ・オン・デマンドでの配信の方が相性が良い。そして,ビデオ・オン・デマンドの実現手段としては,コスト面や利用可能なユーザー数の面でWebでの動画配信が都合がいい。

 とはいえ,動画配信に関するセッション中に「映像コンテンツの競争相手は,ほかのメディアではない。あらゆる生活活動のすべてである」(米Joostのヘンリク・ヴァードリン最高クリエイティブ責任者)という指摘もあった。ユーザーの限りある時間を取り合う,映像ビジネスの難しさを感じさせた。

志村 一隆(しむら かずたか)氏 情報通信総合研究所 主任研究員
1991年早稲田大学卒業,WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立,代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で,放送,インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA,2005年高知工科大学で博士号を取得。