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 「あなたが作る資料は分厚いものですか?それとも,コンパクトなものですか?」という問いにあなたはどう答えるだろうか。ほとんどのITエンジニアの人たちは「情報が盛りだくさんで,とても論理的な資料を作成しています」と答えるはずだ。なぜなら,分厚くて豊富な内容の資料は,自分の知識の豊富さやスキルの高さを証明するものだし,また一生懸命に頑張って作業したことの証になると考えているからである。

 エンジニアがこう考えるのには,上司や経営者にも大いに問題がある。分厚い“作品”を見ると,内容を見るより前に「頑張ったね」「すごいね」とねぎらいの声をかけるのが一般的だからだ。「きちんと内容を見てから評価してください」と要求したいところだが,ITエンジニアの仕事内容を評価するのはそう簡単なことではなく,つい成果物の量だけで評価してしまいがちなのだ。

 しかし,ユーザーから高く評価される「プロのエンジニア」になるには,量が評価につながる,という意識は変えなければならない。「分厚い資料は自己満足のため,よくまとまった薄い資料は相手の満足のため」というひと言を,肝に銘じてほしいのだ。

 まず,何のために資料を作っているのかを考えてみてほしい。提案書,報告書,解説書,手引書,マニュアル,エンジニアが作成する資料は実に様々だが,そのどれにも共通して求められる条件は,「分かりやすい」ということである。短時間で,知りたいことが,誰にでもはっきりと理解できるということだ。自分がその内容をいくらよく理解していても,相手に伝わらないのでは,何のために作られた資料なのか分からないのである。

1枚の紙にまとめる

 では,分かりやすい資料とは何か。まず,見た目が「美しい」ことだ。誰でも,見た目がきれいな資料は見たくなるもの。逆に見た感じが雑な資料は,見る気にならないものだ。きれいな資料を作るには,上下左右のスペースのバランス,見出しと説明文のバランス,段落のつけ方などに工夫が必要だ。

 資料の記述は,平易な文章を用いなければならない。「内容がよければ表現方法は関係ない」という自分本位な考えは通用しない。相手が読んでくれなければ目的を達成することはできないからだ。避けなければならないのは,ダラダラと長い文章を書くことだ。読むのが苦痛になるし,言いたいことを理解するのも難しい。できれば文章形式ではなくて,要約形式が望まれる。図表も積極的に活用する。時系列にまとめられた図表,関係するものとの相関図,問題発生から解決までの顛末をまとめた表などは理解を助けてくれる。

 上の三つの条件は大事だが,最も分かりやすい資料を作成したければ「1枚の紙で一覧できる」ことに力を注ぐことだ。1枚の紙に起承転結がすべてまとめられていれば,資料で言いたいことを間違って受け取ることもないし,時間がないからといって,目を通すのを後回しにされることもないだろう。伊藤忠商事の会長を務めた瀬島龍三氏は,1枚にまとめられていない資料を見せられると,「1枚になっていないのはまだまとまっていないこと」と,資料を投げ捨てたことで有名だ。

 筆者は日本IBMに在籍していた20代の頃から,資料を1枚にまとめることを励行してきた。そのことで,顧客から高い評価やビジネスの成果,チームワークなど,さまざまなものを得ることができたと思う。

【分かりやすい資料作りができるようになる行動習慣】

1.一冊の手帳ですべての情報を管理する
 紙面が限られた手帳にすべての情報を書き込んでいるうちに,短いキーワードでの表現,見やすく記入する工夫ができるようになる。

2.プレゼンテーション資料を作成する
 ワープロで文章を書いていると,どんどん内容が増え,数ページになってしまうことはよくある。だが,PowerPointなどを使って,プレゼン資料の形態で作成すれば,同じ内容の資料を,1枚単位でまとめるスキルが向上する。

3.テーマやキャッチフレーズを作る
 自分個人や部門のキャッチフレーズを考えることは,資料を1枚にまとめるためのスキルアップに大きな効果がある。顧客向けに作成した資料の見出しや項目作りと同じだからだ。言いたいことを表現し,かつインパクトのあるものを考える習慣を身に付けてほしい。

池田 輝久(いけだ てるひさ)
エンパワー・ネットワーク プリンシパル
日本アイ・ビー・エム,日本タンデム・コンピューターズで営業として活躍した後,日本オラクル常務となり,パートナビジネスを担当。イーエムシージャパン副社長を経て,1999年11月11日にエンパワー・ネットワークを創業。ビジネス・スキルに関する教育を手がける。