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M氏:「A社から電話が入ってるよ。保留してあるから取ってね」
私:「あ,たびたびすいません。了解です。ありがとうございます」

 ここ一月半ほど,オフィスでこんなやり取りが頻繁にある。3月の異動で所属部署が変わったものの,業務の都合で席は以前のまま。ところが,新しい名刺に刷られた電話番号は異動先の新部署のものであるため,取材先などから電話がかかってくるたびに,電話を受けてくれた人に20mほど歩いての連絡を強いてしまう。

 もちろん,新部署に着信した私宛の外線を個人内線に転送してもらうように頼んでおけば,新部署の人たちにかける負担はぐんと減る。会社にダイヤルイン番号を導入してもらうまでもなく,打つ手はあるわけだ。

 ただ,自分の至らなさを棚に上げて気になっているのは,こうした社員の生産性を下げるコミュニケーションの不具合が,日本中のオフィスにまだまだまん延しているのではないかという懸念である。

日本の労働生産性は先進7カ国で最下位

 2007年末に社会経済生産性本部がまとめた「労働生産性の国際比較」(2007年版)によると,2005年の日本の労働生産性は先進7カ国の中で最下位,OECD(経済協力開発機構)加盟30カ国中では20位である。1993年以降を見ると,主要先進7カ国の中で13年連続最下位という,意外な状態が続いている。製造業の労働生産性はOECD24カ国中の6位なので,サービス業の生産性の相対的な低さが足を引っ張っていることになる。

 機械による自動化が進んだ製造業と異なり,サービス業では人が生産財としての主要な位置を占める。つまり,生産性が高まらない理由は人にあるはずだ。だが,日本人の業務能力が国際的に明らかに劣っているとは言えないだろう。生産性を落としている原因の一つは,組織としての効率,つまり人と人とを結びつけたり,人と情報とを結び付けたりする,広い意味でのコミュニケーションの非効率にあるのではないだろうか。

 オフィスでのコミュニケーションの手段は,直接の会話のほかに,電話による音声,メールやインスタント・メッセンジャーなどのテキスト,テレビ会議の映像など,さまざま。電話は固定電話もあれば携帯電話もあるし,メールやテレビ電話は携帯電話からも使えるようになっている。情報へのアクセスなら,携帯電話でもWeb閲覧ができるし,オフィスのサーバーにある文書を読み出すことだってできる。最近では,在席情報を確認できるプレゼンス管理ツールの導入も始まっている。

 こうした多様なツールがここ数年急速に普及していながら,生産性向上への寄与がはっきりとは現れてこないのはなぜなのか。実際に取材してみると,うまく使いこなしている組織・企業では,着実に成果を上げている。ただ,その数がまだまだ限られているために,国際比較のような大スケールの統計には出てこないのが実情のようだ。国のスケールで見ると,冒頭のやり取りのようなささいな非効率の圧倒的な数の積み重ねが,優れたコミュニケーション・システムの成果を覆い隠してしまっている構図と言える。

 「日経コミュニケーション」,「日経NETWORK」,「ITpro」は3媒体の合同で,5月に「次世代ネットワーク・シンポジウム」を開催する。テーマは,「2010年の企業ネットワークを考える----NGN×ワイヤレス・ブロードバンドは企業ネットをどう変えるのか?」である。

 社員間のコミュニケーションの強化による生産性向上に取り組むユーザー企業による事例報告や,コンサルタントと日経コミュニケーション/日経NETWORK編集部との対談によるネットワーク・サービス/システムのトレンドや課題の分析・展望,さらに,さまざまなユーザー企業のネットワーク構築を手掛けたインテグレータによる分析・新提案などを通して,今後数年を見通したコミュニケーション・ネットワークのあり方を探る。

 細かなコミュニケーションの非効率も,組織全体で放置すれば,そのツケは決して小さなものでは済まない。新規事業の創出などの大きなビジネス・チャンスの芽を,知らぬ間に摘んでしまっている恐れさえある。人とコミュニケーション・ネットワークに焦点を当てた各セッションは,企業のIT担当者に,きっと新しい発見や気づきを与えてくれるはずだ。

 あ,でも,2010年のコミュニケーションを気にする前に,電話がかかってくるたびに迷惑をかけている“20mほど前に座っている人たち”に,何か差し入れでもしておかないとまずいだろうなー…。