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 役所からの電子メールの返事は、企業と比べて極端に遅いことが多い。ひどいときは返事すら来ない。

 私は昨年、ある自治体の業務について現地調査をするために、20団体ほど自治体を選んでメールでアポイントを取ることにした。市役所の担当課にメールを送って日程の調整をしようとしたのだが、なかなかうまくいかなかった。

軽視されているメール対応

 約半数の自治体からは、比較的きちんと返事をいただけたのだが、なかには、「受信しました」というメールすら来ないところもあった。二度、三度と確認のメールを送ったのだが、最後まで返事が来なかったところや、三度目のメールの後でようやく「当市は民間事業者からの視察は受け入れていない」と断りのメールが来たところもある。返事がまともに来なかった市の中には、IT化が進んでいると評判の首都圏の某市役所もあった。

 都道府県も中央省庁も、同様にメールの返事は遅い。知事の「情報公開を推進する」との方針とは異なり、いつまでたっても返事が来なかった県、情報教育についての問い合わせに返事が来なかった省――。こんな例はいくつもある。

 もったいないと思える例もあった。某省に戸籍の電算化の状況を質問したときのことだ。1週間たっても受信した旨の返事も来なかったので、「また無視されるのか」と思っていたところ、次の日に非常に丁寧で具体的な返事が来た。受信と同時に、「受信しました。1週間程度お待ち下さい」と返信するだけで、顧客満足度は一層高まるのに。本当にもったいない話だ。

 市町村の各担当課ではなく、代表アドレスに届くメールへの対応は改善されてきているようだ。

 私はIT関係の講演を引き受けることも多いのだが、その時は、講演する市の子育て支援サービスの状況や学校教育など複数の部局にまたがる事項について電子メールで質問し、回答のスピードと内容をチェックしている。最近は回答が非常に早くなってきて、2~3日以内に返信が来ることが多い。特にコールセンターを設置している自治体は反応が早い。もっとも、自治体コールセンターは民間企業が運営している場合が多いのではあるが。

幹部は名刺にアドレスを

 実は、メールのやり取りのスピード以前の問題がある。市長や副市長など自治体幹部が、名刺にメールアドレスを載せていないケースが多いのだ。ある政令市の副市長に「どうしてアドレスを載せないのですか?」と尋ねたところ、「陳情のメールがたくさん来たら大変でしょ」とのお答えだった。

 本当にそうだろうか。私が市長をしていた当時は、名刺にメールアドレスを載せていたが、人口16万人の佐賀市民から来るメールは平均すると一日に4~5 通であった。直接幹部にメールを出す市民はそれほど多くはない。住民からの陳情や提言は市役所のホームページ上に「電子提言箱」が設置されていたので、そちらにたくさん来ていた。

 今ならスパムメールがたくさん来る恐れもあるし、都市部には市長に直接メールを出す人はもっと多いかもしれない。処理に自信のない人は秘書を使えばよい。まずスパムメールの削除をしてもらい、次に、処理の振り分けをしてもらう。具体的な対応の必要がないものは、関係課にメールを転送するとともに、定型的な御礼のメールをその日のうちに発信すればよい。

 複数の担当課による回答作成が必要なときは、1週間以内に返事をすると決めたうえで、担当課に転送し、広報担当が返答を取りまとめればよい。市長個人が処理するべきものもある。もちろん、受信と同時に御礼と少し時間がほしい旨の返信をしておく必要がある。

 市長の机の上のパソコンにも必ずCCでメールが届くようにしておくべきだ。市長時代、私は住民からの手紙、電子提言箱に来るメールは、すべて即日コピーを届けさせていた。そして、回答にもすべて目を通していた。何が重点分野かを判断するためにも、また、各種制度や事業を実効性のあるものとしていくためにも、住民からの意見は非常に貴重な情報源だったからだ。

 自治体の経営幹部は、手紙だけでなく、例え数が多くとも市民からのメールも常にチェックしておくべきだ。まずは、どんどん意見を出してもらえるように、名刺へのメールアドレス記載は必須といえる。

 これまでもっぱら窓口や電話が担っていた住民や企業とのコミュニケーションは、今後はメールの比率が増えていくだろう。

 ともすると「基幹系システムの再構築」「業務最適化」などという大掛かりなシステムの話が電子自治体の中心テーマのような錯覚をしてしまうが、「ローテク」な電子メールのやりとりをきちんと行うことを軽視してはならない。

 メールに「返事をしない」「遅い」という体質を改めるという最低限のことだけでなく、返事や依頼の書き方、出すタイミングなど、メールにあるいろいろな“作法”を役人も学んではどうだろうか。

メールのマナー研修を

 どうしたらメールでこちらの依頼の趣旨が正確に伝わり、また、誤解やトラブルを避けることができるかを学ぶ機会は、今の役所の研修の中にはほとんどない。幹部から担当職員まで、それぞれのレベルに応じて、メールのやり取りの基本を学ぶ研修やメールを使った仕事の進め方についての研修が必要ではないだろうか。

 携帯メールなどを駆使しているから大丈夫と思っているあなた。バカにしないで基本を学んでみませんか。お勧めの一冊は、『あなたの仕事が劇的に変るメール術』(平野友朗)だが、他にも参考になる本は何冊もある。個人としてでも、メールの基本を学ぶことによって市民の満足度と仕事のスピードは必ず上がる。保証します。

木下氏写真

木下 敏之(きのした・としゆき)

木下敏之行政経営研究所代表・前佐賀市長

1960年佐賀県佐賀市生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。1999年3月、佐賀市長に39歳で初当選。2005年9月まで2期6年半市長を務め、市役所のIT化をはじめとする各種の行政改革を推し進めた。現在、様々な行革のノウハウを自治体に広げていくために、講演やコンサルティングなどの活動を幅広く行っている。東京財団の客員研究員も務める。著書に『日本を二流IT国家にしないための十四か条』(日経BP社)。