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統合経費の増大とシステム選定は無関係

 そもそもシステム一本化の経費が膨らんだことと、システムの選択とはほとんど関係がない。経費増の主な理由は、両行の商品やサービスの大半を継続し、なおかつ大事を取ってシステム一本化に踏み切る時期を1年間遅らせた点にある。

 本来なら両行の商品やサービスのうち、類似のものはどちらかに一本化し、商品数を思い切って減らすべきであった。システム一本化にかかわらず、情報システム関連プロジェクトを成功させる鉄則の1つは、開発すべきシステムをできる限り単純にすることだからだ。しかし商品統廃合は顧客の利便性を損ねるという考えから、三菱東京UFJ銀はほとんどの商品とサービスを継続する。

 この判断をした背景には、金融庁の意向とマスメディアの目があった。実際、旧UFJ銀が手がけていた宝くじ販売をやめると決めただけで、それを批判した新聞があった。こういう状況である以上、仮に“ある大手銀行幹部”の言う通り、旧UFJ銀のシステムが「業界で最先端だった」として、それを採用したところで、旧東京三菱銀の商品やサービスを「旧UFJ系に合わせてコストが膨らんだ」に違いない。

 しかも2007年度にも実施するはずだった一本化を丸1年遅らせたため、この間、SEを抱え続けなければならず、経費がさらに膨らんだ。情報システム開発の経費の大半はSEの人件費である。1年遅れの理由は、開発量が増えたからではない。

 2005年10月に三菱UFJフィナンシャルグループが誕生した際、旧東京三菱銀と旧UFJ銀のシステムを接続し暫定的なシステム統合をしようとしたが、同グループは銀行合併と暫定システム統合を2006年1月まで3カ月遅らせた。金融庁の強力な“指導”があり、それをやむなく受け入れたからである。暫定統合をずらしたため、一本化の予定も遅らせることになった。一本化の日程も3カ月だけずらせばよいではないか、と思うかもしれないが、大規模なシステムの切り替え作業は年末年始か、5月の連休でないとやりにくく、小刻みな日程調整は容易ではない。

 2005年に金融庁が強硬姿勢を取ったのは、預金者を保護するために暫定システム統合の安全性を見極めるという大義名分があったからだが、システム統合で万一失敗があったら「金融庁は何をしていたのか」とマスメディアから指弾されることになりかねず、それを嫌ったからでもあろう。ちなみに、暫定統合を巡っても「統合作業は予断を許さない」といった趣旨の報道がマスメディアで繰り返された。当時の東京三菱銀やUFJ銀がそうした情報を流すとは思えない。マスメディアのニュースソースは、暫定統合を遅らせることを望んだ組織であったに違いない。結局、常に「メディアリスク」なのである(メディアリスクについては、拙稿「74年前に指摘された『三原山型観念的社会記事問題』」を参照いただきたい)。

前代未聞、統合作業前にプロジェクトの全貌を公開

 マスメディアの執拗な批判に対し、三菱東京UFJ銀行は前代未聞の手を打った。さる2月25日、IT(情報技術)の専門誌やIT産業界、コンサルタントといった、ITを専門とする人を対象に「システム本格統合説明会」を開催したのである。一本化の作業を始める前に、説明会を開くのは極めて異例のことだ。説明会の冒頭、システムと事務の責任者である原沢隆三郎常務が挨拶したが、その内容もまた異例であった。原沢常務は次のように述べ、出席者に頭を下げた。

 「3年前、巷ではどちらのシステムを選択すべきだったのか、と話題になりましたが、今は経営として一つひとつの物事を決め、前に進めていく時期です。本日公表します情報に基づいてシステム統合の安全性を皆さんに判断してほしいと思います。時計を戻して過去を議論するのではなく、将来の議論をしていただけるようお願いします」

 続いて、根本武彦執行役員システム部長がプロジェクトの進捗状況を明らかにし、とりわけリスクマネジメントについて、危険な点の洗い出しからテスト手法、リハーサル計画まで時間をかけて説明した。現在進行中のプロジェクトのリスクマネジメントについて、ここまで詳細に語った企業は、IT以外の産業界を見渡しても無かっただろう。徹底したリスクマネジメントを実施していることをITの専門家にアピールし、「やるべきことはやっている」という認識を持ってもらう狙いであった。

 しかし、この説明会には一般紙の記者も参加しており、彼らからは「専門用語を並べ立て煙に巻こうとしている」と不評を買ってしまった。ITの専門家でないと確かに分かりにくかったかもしれないが、そもそも専門家向けの説明会だったのだから仕方がない。発表内容を理解できなかったためか、あるいは何らかの信念を貫こうとするためか、質疑応答の時に一般紙から出たのは、「旧UFJ銀行のシステムを採用していたら経費にどのくらい差が出たか」「畔柳信雄頭取がビジネス誌で旧UFJ銀行の情報系システムが劣っているかのような発言をしていたが本当にそうなのか」といった「時計を戻して過去を議論」する質問であった。