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秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
取締役・マネ―ジングディレクター

小林 亮介
調達推進基盤 代表取締役社長

 今回からは、偽装請負を適正化していくプロセスについてお話をさせていただきます。
適正化は、以下の4つのプロセスに分けて進めていきます。

1.契約の現状調査
2.調査結果の分析と対応方針の決定
3.ビジネス戦略への反映
4.適正化の実行と検証

【1.契約の現状調査】

全契約をリストアップする。

 まず始めに行うことは、対象になりそうなすべての契約をリストアップすることです。外部への発注(請負)が購買部門などで一元管理されていればよいのですが、多くの会社では契約が現場単位で締結され、いったいどのくらいの発注数があるのかさえ把握できていないのです。

 コンサルティングのプロジェクトでも、案外このリストアップに時間と手間がとられることが多いように思います。しかし、作業計画を立てるためにも、調査漏れから問題が発生しないようにするためにも、まず調査範囲全体を確定させ、対象となりそうな契約のすべてをこの段階で明確化しておかなければなりません。

 また、これらの工程をサンプリング調査で済ませたいという企業もあります。しかしながら、同材料&同製法で作られる工業製品とは異なり、請負契約は一つひとつが違う条件のもとに締結されますので、この方法はあまりお勧めできません。

調査方法と留意事項

 調査範囲が確定できれば、次に、個々の契約の実態調査に移ります。

 まず契約書の内容チェックを行うのですが、この段階でもさまざまな問題が発見されます。請負でありながら“最終成果物が何も記載されていない”、“検収条件・請求の仕方についての明確な取り決めがない”など。「うちは法務部がしっかりしているから大丈夫」と自信満々に断言される企業でも、問題が発見されないことはまずありません。

 しかし多くの場合、契約書そのものに問題があることはまれで、“契約書と実態が違う”ことが問題になっています。そこで、業務を担当している実施責任者と営業担当者から、実際の現場がどうなっているかの情報を集めることが必要になります。

 本来は、全ての契約について対面のヒアリング調査をかけたいところなのですが、契約件数の多い大企業であれば、次善の策として全契約に対するアンケートを利用することになります。

 アンケートでは、正確な回答を得るための配慮が必要です。“正直に回答して契約の問題点が明らかになると懲罰を受ける”といったうわさが広がってしまうと、誰でも嘘の報告をしてしまいます。そこで経営トップから、「調査の目的は契約の適正化であり、不正の発見と処罰ではないので、実態を正確に回答してほしい」、さらに、「しかし、ここで不正確な記述をすることは問題とする」といった強いメッセージを出してもらうようにします。

重要な3つの項目

 ここまでで、アンケート調査を実施する準備ができました。さらに続けて、アンケートの質問項目を作成します。

 労働局の自主点検表にはいろいろな項目がありますが、そのすべてを質問項目にすると必要以上の負荷がかかってしまうので、大事な数点に絞り込みます。

 今回とくに重要なのは、(1)請負の条件を満たしているかの把握、(2)再委託の状況把握、(3)業務内容・職種の把握についての3点です。

 (1)の請負の条件を満たしているかの把握、では、“誰に指揮命令されて仕事をしているのか?”、“明確な仕事の完成基準があるかどうか?”、“作業時間の管理は誰が行っているか?”などを質問します。これらの質問は、適正性を見る上での大事な基礎情報となります。

 (2)の再委託の状況把握は、外注企業が別の下請け企業にどのくらい外注しているかの実態を把握するためのものです。
たとえば、階層が多ければ、技術者が属している会社との直接契約が必要になるので、派遣契約に変更するという解決策が取れなくなることがあります。
 また、不必要な階層が存在しているかもしれません。適正化していくための方向性を探るために、発注構造の階層性をしっかりと把握しておくのです。

 (3)の業務内容・職種の把握、では、“業務内容に該当する職種とグレードはなにか?”を質問します。請負業務であれば、複数人の協働作業になることが予測されます。その場合、個々人の業務を該当職種とグレードに落として把握することで、実行体制や業務内容の実態を明確にします。
特定の業務内容・職種、グレードによっては、指揮命令を受けないと作業が困難なものもありますし、価格とつき合わせることで明らかに矛盾がある契約も抽出することができます。

 業務内容・職種、グレードの回答を得る際に注意しなければならないことは、統一された用語で記載することです。自由に記述されてしまうと、回答が多岐に渡って集計ができなくなってしまいます。そこで、技術者の職種やレベルなどがわかるスキルフレームワークを用いて、その中から選択式で記述してもらいます。
人事考課制度で利用している技術者の評価テーブル(グレード)などがあれば、それを基準にすればよいでしょう。もし、そのようなものがない場合、もしくは一般的な指標と合わせたい場合は、ITSS(*1)の活用をおすすめしています。一定の認知もありますし、カテゴリ別の複数の職種と7段階のグレードを持って構成されていますので、今回利用する上での条件を満たしています。

 アンケート調査の実施は、各契約データに上記の質問項目をつけて、対象者に配信して終了です。

次回は、アンケートを実施した結果、どのようなことがわかるのかを見ていきます。

(*1)ITSSとは経済産業省が策定したITスキルスタンダード(ITスキル標準)の略称で、IT人材の必要とされる能力を明確化・体系化したもので、IT人材の育成の指標として作られたものです。

注)当コラムの内容は、執筆者個人の見解であり、所属する団体等の意見を代表するものではありません。


秋山 進 (あきやま すすむ)
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
取締役・マネ―ジングディレクター
リクルートにおいて、事業・商品開発、戦略策定などに従事したのち、エンターテイメント、人材関連のトップ企業においてCEO(最高経営責任者)補佐を、日米合弁企業の経営企画担当執行役員として経営戦略の立案と実施を行う。その後、独立コンサルタントとして、企業理念・企業行動指針・個人行動規範などの作成やコンプライアンス教育に従事。産業再生機構の元で再建中であったカネボウ化粧品のCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)代行として、コンプライアンス&リスク管理の体制構築・運用を手がける。著書に「社長!それは「法律」問題です」「これって違法ですか?」(ともに中島茂弁護士との共著:日本経済新聞社)など多数。京都大学経済学部卒業

小林 亮介(こばやし りょうすけ)
株式会社調達推進基盤 代表取締役社長
PMI( Project Management Institute)認定PMP(プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル)
金融、ITベンチャーを経て、株式会社パソナテック入社。 人材派遣・紹介に続く、主軸事業となるアウトソーシングビジネス(上流高付加価値サービス)の 新規事業企画および実行に従事し、責任者として事業を統括。 その後、人事・外注戦略立案および契約適正化等を行うコンサルティング部門を設立、部門長。 市場ニーズからサービス開発を行い、IT戦略立案、受託開発から各種専門コンサルティングの メソドロジーを策定し、セールスからサービスデリバリ、プロジェクトマネジメントを担当。 2007年に、派遣と請負に関する適正な区分を推進し、IT業界の受発注における構造改革を ミッションとする株式会社調達推進基盤を設立、代表取締役となる