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 ここ数年のうちに,企業の業務用端末として携帯電話が使われる機会が増えてきた。日経コミュニケーションでは2003年以降「モバイル・セントレックス」と呼ぶ,携帯電話を企業の内線電話として使うシステムの記事を書いてきたが,最近では通話端末としてだけではなく,データ通信端末としての用途が広がっている。

 その一つが「モバイルSaaS(software as a service)」である。企業の業務を支援するサービスとして定着してきたSaaSを,社内のパソコンだけでなく社外のモバイル機器(主に携帯電話)から使おうとする動きが始まっているのだ。4月25日には,KDDIが「KDDI Business Outlook」と呼ぶ,パソコンと携帯電話の双方から使えるモバイルSaaSサービスを開始した。

 業務に定着したSaaSを,社員が持ち歩く携帯電話からも利用できるようにして,社員の利便性と効率性を高めるという狙いがあるようだ。

メガクラスの高速化が変えたモバイルの使い道

 携帯電話単体でデータ通信を使うだけでなく,ノート・パソコンに携帯電話のデータ通信カードを接続する事例も増えてきた。背景には第3世代携帯電話(3G)のデータ通信サービスの進化がある。メガクラスの実行スループットを実現できるHSDPA(high speed downlink packet access)などを使い,しかも携帯電話以外の機器をつないでも料金は定額というサービスが浸透してきた。昨年春に携帯電話事業に新規参入したイー・モバイルがサービスを始めたが,昨年末にはNTTドコモとKDDIも同様のサービスに乗り出したのだ。メガクラスのデータ通信が可能な3G高速化技術は,3.5Gとも呼ばれる。

 確かに3.5Gでメガクラスの実行速度が出ると,インターネット・アクセスは快適になる。筆者がこれまでよく使っていたPHSのデータ通信カードに比べて,まさに1ケタ上の速度。自宅で使う固定ブロードバンド並みのスピードでストレスなくWebを閲覧できた。

 この3.5Gデータ通信をWANのアクセス回線として使う動きもあるという。固定網と無線網のインタフェースを持つ「ワイヤレス・ルーター」を導入すると,固定網に障害が起こったときには無線網を使うというバックアップ体制を容易に構築できる。イベント会場や工事現場の事務所など短期間だけ利用するスペースには,ワイヤレス・ルーターを設置するだけで,その日からでもWANにつながった拠点として利用できる。

 携帯電話が固定ブロードバンド並みに高速化したことを踏まえ,これまでにない用途で使おうとするアイデアが生まれてきた。

セキュリティの課題解決も3.5Gで

 3.5Gによる高速化は,セキュリティ向上の目的にも使える。社員が持ち歩くノート・パソコンの紛失や盗難が大きなセキュリティ・リスクとなっている中,この対策に3.5Gデータ通信を使おうというものだ。

 一つは,モバイル・シン・クライアントの実現である。これはユーザー側の端末にはハード・ディスクを持たず,端末を起動した時点でネットワーク経由でアプリケーションなどをダウンロードして使う「シン・クライアント」を,無線ネットワーク経由でも利用するものだ。これなら端末を紛失しても,中にデータが残らないためリスクを回避できる。

 ただシン・クライアントをストレスなく使うには,実行速度で500k~800kビット/秒が必要とされていた。この伝送速度を3.5Gが実現できたため,モバイル環境でも利用できるようになった。

 もう一つ,3.5G通信モジュールをパソコンに内蔵すると,携帯電話では当たり前になった遠隔ロックをノート・パソコンにも施せる。米インテルの「vProテクノロジー」と連携することにより,パソコンの電源が切られていたとしても,通信モジュールには電力を供給するといった作りこみが可能になるからだ。例えばパソコンを紛失した場合に,システムをロックして第三者が使えないようにするといった対応を遠隔地から施せる。

 ノート・パソコンの紛失問題がいくつか報道されるうち,取材の場でユーザー企業からノート・パソコンの持ち出し禁止の話をよく耳にするようになった。実際,こうした規制を社内に設けた企業は少なくないだろう。そしてその裏では,技術によってその問題を解決する動きが具体化しようとしている。それほど,企業にとってのモバイル活用は業務実践の上で不可欠なテーマとなっており,そのためのソリューションは日進月歩で進化を続けている。

変化が激しいソリューションの実情に迫る

 冒頭で述べたモバイル・セントレックスもここへ来て大きな変化が見えている。かつてのモバイル・セントレックスは無線LANを内蔵した専用の携帯電話端末を使い,社内では無線LANを,社外では携帯電話網を使うというものが主流だった。それが携帯電話事業者各社が法人向けの定額メニューを相次ぎ投入したことで,一般に売られている携帯電話に企業内のすべての電話を統合するというソリューションが現実的になってきたのだ。

 これらサービスは2007年後半から2008年前半に出そってきた。専用端末を使った内線システムの構築を進める企業もあるが,企業が内線電話を考え直す際の一つの選択肢として,法人向け定額メニューが浮上してきたことは間違いない。

 これほど動きが早く,短期間で時代遅れになる企業向け携帯電話ソリューションの最先端について,このたびセミナーの場で話をすることになった。5月14日に開催する「次世代ネットワーク・シンポジウム」「最新モバイル・ソリューションのポイントに迫る」というセッションである。

 ただ,一方的に私が現状を整理するだけではつまらない。そこで,企業向けモバイル・ソリューションに詳しい,野村総合研究所 情報・通信コンサルティング部の前原孝章・副主任コンサルタントと壇上で議論を交わすことにした。ここでは“高速モバイル”,“モバイルSaaS”,“内線ソリューション”,“ユニファイド・コミュニケーション”,“スマートフォン”,“セキュリティ”の六つのポイントについて,現状分析と将来展望をする。

 少し補足をしておくと,内線ソリューションでは,モバイル・セントレックス以降の携帯電話を使った内線電話の最新動向を,携帯電話各社の法人向け定額メニューを交え探っていく。ユニファイド・コミュニケーションでは,プレゼンスを中心に携帯電話やメールを含めてコミュニケーションを統合するシステムの動きに迫る。スマートフォンではWindows Mobileをはじめとする端末に,ウィルコムが投入するUMPC(ultra mobile PC)や,ソフトバンクのインターネットマシンなどを絡めて,この市場の行方を考える。

 セミナーはまず日経コミュニケーションに掲載した内容でソリューションの現状を俯瞰した後,前原氏にその方向性を見通してもらうという段取りになる。モバイルを取り入れた企業システムの構築に興味がある方はぜひお聞きいただきたい。