PR

 地上アナログテレビ放送の停波により2011年8月から空くVHF帯の周波数“跡地”。この有効利用に関して,2011年の事業化を目指す複数のモバイル・マルチメディア放送陣営による周波数獲得競争が活発になっている。

 現在,総務省の「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」では,ビジネス・制度面,技術・周波数分配,およびグローバル対応に関しての議論がなされている。

 特にVHF帯ハイバンド上位の14.5MHz幅には,日本の地上デジタル放送方式であるISDB-T(Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial)をベースに拡張した「ISDB-Tmm(ISDB-T Mobile Multimedia)」方式と,米クアルコムが開発した「MediaFLO」方式の2つの提案があり,両陣営がしのぎを削る状況である。

 今回と次回は,2008年3月19日にクアルコムジャパンが開催した「MediaFLO Conference 2008」の内容を整理し,2011年に向けたMediaFLO陣営の取り組みについて解説する。

技術的な優位性として「伝送効率は世界最高レベル」

 MediaFLO Conference 2008の講演でクアルコムジャパン社長の山田純氏は,「MediaFLOはモバイル・マルチメディア放送技術の次世代版として着実に仕上がってきている技術。テレビ1チャンネルの帯域でワンセグと同等の画質であれば約30チャンネルの伝送まで可能であり,伝送効率においては世界最高レベルにある」と,まずその優位性をアピールした。

 MediaFLOは標準化活動でも国際的な成果を得てきている。ITU-R(国際電気通信連合無線通信部門)勧告BT.1833「ハンドヘルド端末による移動体受信向けマルチメディア・データ放送」の「Multimedia System M」に,MediaFLOは日本のISDB-TワンセグとISDB-Tsb,欧州のDVB-H,韓国のT-DMBなどとともに含まれた。また,TIA(アメリカ米国電気通信産業協会)でも,7つ以上のFLO技術が標準化されている。さらに,ETSI(欧州通信規格協会)でも,,ワークアイテム(DTS/JTC-018)として承認されている。

 また山田氏は,日本における周波数獲得に向けた今後の活動目標についてこう語る。「ユーザーに受け入れられるサービスが提供できてはじめて,周波数という限られた資源を割り当ててもらうことに意味が出てくる。とにかく,ユーザーに受け入れられるサービスやビジネスモデルを作り上げることに注力しなければならない」。MediaFLOが,サービスやビジネスといった側面をしっかり検討する段階に入ったことを感じさせた。

VHF帯の利用による課題の克服に注力

 現在,国内でMediaFLOサービス提供の可能性を検討しているのは,KDDIとクアルコムジャパンが出資する「メディアフロージャパン企画」と,ソフトバンクが設立した「モバイルメディア企画」の2社である。

 メディアフロージャパン企画は,VHF帯ハイバンドの1チャンネル(6MHz)で全国をカバーすることを想定して検討を進めている。既存のMediaFLOは,UHF帯の利用を前提として技術仕様が策定されている。VHF帯での利用は日本が初めてとなるわけだ。VHF帯はUHF帯に比べて電波特性上より遠くまで電波が伝わる。そのため,電波特性の違いにより引き起こされる「干渉」をいかに抑制するかが大きな課題となる。

写真1●メディアフロージャパン企画が示した耐干渉性能のスペック
写真1●メディアフロージャパン企画が示した耐干渉性能のスペック
[画像のクリックで拡大表示]
 この課題の解決には,UHF帯のガードインターバル(Guard Interval)仕様をVHF帯用に拡張するとともに,耐干渉能力の仕様を見直す必要がある。

 干渉問題の解決策として総務省の懇談会では,「SFN(Single Frequency Network,単一キャリア)でカバーできない地域を考慮し,3チャネルあるいは4チャネルで全国をカバーする」というイメージが示されている。

 しかし,メディアフロージャパン企画社長の増田和彦氏は「ガードインターバル長を1/4とした場合,遅延時間369マイクロ秒,距離110.7kmまでの遅延波による耐干渉能力を実現する。これにより6MHz幅の1チャンネルで全国ネットワークをSNFでカバーでき,電波を有効に利用できる」と説明した(写真1関連記事)。

 なお,3月28日に開催された「懇談会」の第10回会合において,マルチメディア放送企画LLC,メディアフロージャパン企画およびモバイルメディア企画へのヒヤリング結果,「全国向け放送」については複数の周波数帯(チャンネル)が必要であることを前提とはせず,SNFによる単一周波数帯でのサービス実現を前提として一定の帯域を割り当てることになった(配布資料議事録参照)。

技術の中立性を担保することが重要なポイント

 現在,複数の携帯端末向けマルチメディア放送方式が提案されているが,基本的にどの技術もOFDM(直交周波数分割多重)という共通の技術基盤を使った方式である。従って,複数の技術方式を1チップで提供することが技術的に可能である。「チップの価格は出荷数の規模の経済によって決まってくる。複数の技術方式を1チップで提供できてグローバルに展開できれば,最終的にエンドユーザーが負担するコストはごくわずかになると考えている」(メディアフロージャパン企画社長の増田氏)。

 また,MediaFLOの標準規格の作成・提案などを実施する業界団体であるFLOフォーラムのプレジデンを務めるカミール・グライスキ氏は「メーカーは,複数の方式,複数の技術をサポート可能な製品を提供する基本的戦略を持っている。グローバルな規模の経済の視点から,複数方式への対応を前提にすることが必用」と技術中立性の重要性を説明した。

写真2●モバイルメディア企画は複数事業者による競争を主張
写真2●モバイルメディア企画は複数事業者による競争を主張
[画像のクリックで拡大表示]
 さらに,日本での周波数獲得を目指している立場からメディアフロージャパン企画の増田氏は「モバイル・マルチメディア放送の実現の過程では,あらかじめ1つの技術に対して方向性を出すのではなく,“選択が自由”であるという考え方が非常に重要」とし,「グローバルな流れから見ても,技術的な中立性を担保しなければならない」と見解を示した。

 ソフトバンクグループのモバイルメディア企画取締役の石原弘氏も「一つの技術に絞ることなく,技術方式の選択は事業者へ委ねるべきである」と技術中立性を支持する姿勢を示した。

 加えて石原氏は,周波数割当に関して「競争が発生しないと新しいサービスが生まれない。周波数は2社以上の複数事業者で分け合えるようにした方がよい」と,競争政策の促進を強調した(写真2)。

◇    ◇    ◇

 次回は,MediaFLOで事業化を目指すメディアフロージャパン企画とモバイルメディア企画の2社が描くマルチメディア放送の姿を解説する。