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 通常,プロジェクト・マネージャ(PM)は,自分の担当するプロジェクトにおいてサブリーダーや担当者などから進捗報告や結果報告など多岐にわたる報告を受ける。その報告内容に基づいて状況を判断し,場合によっては重大な決断を行うことも多々ある。

 報告される内容があいまいであったり,虚偽が含まれていたりすると,その後のプロジェクトの運命を大きく左右することにもなりかねない。あいまいな報告が定常的となっていたために途中までうまく行っていたはずのプロジェクトが突然失敗するケースも少なくない。

「進捗率90%」の意味は?

 筆者の知り合いのベテランPMが失敗した例を紹介しよう。Cさんは社会人生活20周年を迎えるベテラン技術者である。Cさんの勤めるZ社は,大手プロバイダであるY社からWeb経由でユーザーが直接自分の情報を更新するシステムの開発を受注した。

 今回の開発は,そのシステム要件から高いセキュリティが要求されていた。またY社はこのサービスを他社に先駆けて早期に開始したいと考えていた。技術的にも納期的にも厳しい案件である。そこでZ社としては,PMとして,Cさんに白羽の矢を立てたのだった。

 さすがに経験豊富なCさんだけあり,プロジェクトは順調に進んでいった。ユーザーであるY社の担当者やCさんの上司も「この調子なら…」と安心していたときに問題が発覚した。

 事の次第は次の通りである。開発も終盤に来た定例進捗会議で,Cさんはユーザー側のデータベース開発チームリーダーであるDさんに,いつものように状況を問い合わせた。

Cさん:Dさん,進捗はどんな調子かな?
Dさん:ちょっとした問題がありますが,なんとか挽回できる範囲です。進捗率としては90%です。
Cさん:そうか。進捗率は良さそうだね。問題も挽回できる範囲ということだし,安心したよ。

 しかし,実際は違っていた。翌週の定例進捗会議でも,そのまた翌週の会議でも…とうとう1カ月間,Dさんのチームの進捗率は90%のままいっこうに進まなかったのである。さすがに業を煮やしたCさんはDさんに対して,いったいいつになったら完成するのかを問いただした。するとDさんからの回答は驚くべきものであった。

Dさん:このままでは問題点を挽回できそうにありません。納期を2週間ほど伸ばしてもらわなければ完成できません。
Cさん:何を言っているんだ!君は,いつも進捗率90%で問題はたいしたことがないので挽回可能だといっていたじゃないか!

 怒鳴ってはみたものの,プロジェクトとしては既に破綻していた。

報告責任はPMにある

 Cさんのケースの場合,報告しなかったDさんに責任があるかというと,そうではない。Dさんにも落ち度はあったかもしれないが,プロジェクトとして進めている以上,すべての責任はPMたるCさんにある。今回のケースの場合,CさんがDさんから報告を受けたときに,「進捗率90%」の根拠と「問題はたいしたことはない」根拠の両方について確認する義務があった。

 「進捗率90%」と報告されると,いかにも定量的な報告がなされていると感じてしまうかもしれない。しかしその数値的根拠がはっきりしていない場合には,いくら数値を並べたとしてもそれはあいまいな報告なのだ。

 「たいしたことはない」「挽回できる」について言えば,希望的な観測であり,あくまで報告者の主観である。もしかすると,問題点を隠すためにあえてあいまいな表現をしたのかもしれない。

 Cさんは,これらのあいまいな報告を受けたにもかかわらず,うかつにもそのまま信用してしまったのだ。これこそが今回の最大かつ根本的な原因である。

 Cさんは,たとえそれが信頼する部下からの報告であっても,PMである以上,すべての報告について内容を精査すべきであった。その上で,あいまいな内容についてはあいまいな点を指摘した上で追加の報告を行わせる必要があったのだ。

What,Why,Howを聞け

 プロジェクトにおける進捗報告の意味は,現在の状況を正確に把握し,計画と実績に差異がないかどうかを明らかにすることである。その上で状況を評価・判断し,次の一手を考えるのである。そのためにPMは,徹底して正確な状況把握にこだわる必要がある()。

図●進捗率計上方法の例
図●進捗率計上方法の例
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 報告内容から「あいまいさ」を排除するように心がけなければならない。その為にはどうしたらよいだろうか。

 筆者が進捗報告を受ける場合には,次の点に注意して受けるようにしている。

What:進捗報告の内容は何か?
Why:なぜその進捗内容となっているのか?
How:(問題が無い場合)どうやったら現在の進捗状況を維持できるか?
How:(問題がある場合)どうやったらその問題を打開できるか?

 まず,What(報告内容)については,できる限り定量的な報告となるように指導する。また,Why(なぜ)については,たとえ計画通りに進んでいるという報告であっても,なぜ計画通りに進んでいるのかを確認する。

 その上で,How(いかにして)について,どうやったら今後も計画通りに進めることができるのか?本当に問題は無いのか?ということを必ず確認するようにしている。この三つの質問を行うことで,報告者が自然とその報告内容からあいまいさを排除して報告できるようにしている。

PMの仕事はあいまいさとの戦い

 我々日本人が普段行う日常会話は,あいまいさに満ちている。それは,あうんの呼吸という言い回しに代表されるように,本音と建て前を大切にし,言葉の裏を読む会話が主であるということからも理解できる。

 要するに「相手に察してもらう」ことが前提にあるのだ。しかし,これがプロジェクトとなると,非常に問題となる。プロジェクトにおいては相手に察してもらう文化は通用しない世界であることを認識しなければならない。

 PMは,様々な報告内容からできる限りあいまいさを排除し,正確な状況を把握するように務めなければならない。報告者に対しては,積極的に質問や指導を行うべきなのだ。そのために,報告者が自然とあいまいさを排除した報告ができるような報告ルールを定めたり,報告書のフォーマットを作成したりすることが重要である()。

表●あいまいな報告の例
あいまいな表現 問題点 解決方法
おおむね順調です 問題点が潜んでいることを示唆している 何が問題点なのか明確にする
問題が無いことはありませんが大丈夫です 要するに問題があると言っている 何が問題かを明確にする。大丈夫である根拠を示す
進捗率90%です(進捗率を示す根拠が無い場合) 数値だけが一人歩きし,実態が見えにくくなる その進捗率は何を基準に算出しているのかを明確にする。事前に進捗率を計上するルールを定める
挽回できます 挽回できる根拠が見えない 工程遅延を挽回するには,本来計画されていた作業に加えて追加の作業が発生する。これを加味した上で挽回できるという根拠が無ければ安心してはいけない
検討します
善処します
前向きに~
多少~
抽象的な表現であり具体的に何を行うのか分からない 「検討し,○○日までに結果を報告します」「○○については××の策を講じます」といった具体的な表現に置き換える
~する予定です その事柄が実行されるかどうかが分からない(確定情報として扱うことができない) 実施が決定している事柄であれば「~する」と宣言する。実施が未決定の事柄であれば,予定された事柄に対して「なぜそれが実行可能なのか」または「なぜ実行できない可能性があるのか」を明確にする

上田 志雄
ティージー情報ネットワーク
技術部 共通基盤グループ マネージャ
日本国際通信,日本テレコムを経て,2003年からティージー情報ネットワークに勤務。88年入社以来一貫してプロジェクトの現場を歩む。国際衛星通信アンテナ建設からシステム開発まで幅広い分野のプロジェクトを経験。2007年よりJUAS主催「ソフトウェア文章化作法指導法」の講師補佐。ソフトウェア技術者の日本語文章力向上を目指し,社内外にて活動中。