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 前回は,業務用携帯電話/PHSの個人情報保護対策を取り上げた。今回は,個人情報保護法本格施行直後から,「官」と「民」の隙間の大きな問題となってきた「過剰反応」対策について考察してみたい。

「過剰反応」対策盛り込んだ「個人情報の保護に関する基本方針」変更

 2008年4月25日,政府は,「個人情報の保護に関する基本方針」の一部変更を閣議決定した(内閣府国民生活局「個人情報の保護」参照)。「個人情報の保護に関する基本方針」は,個人情報保護法第7条の規定に基づいて,個人情報の保護に万全を期すため,個人情報保護に関する施策の推進の基本的方向を定めるとともに,国,地方自治体,独立行政法人,個人情報取扱事業者などが講じるべき措置の方向性を示したものである。2007年6月に国民生活審議会個人情報保護部会が公表した「個人情報保護に関する取りまとめ(意見)」が,今回の変更のベースになっている。

 主要な変更点としては,以下のようなものがある。

  • いわゆる「過剰反応」を踏まえた取り組み
  • 個人情報保護に関する国際的な取り組みへの対応
  • 消費者など個人の権利利益保護を考慮したプライバシーポリシーの記述
  • 安全管理措置の程度(例.市販名簿の取り扱い)

 特に注目されるのが,「過剰反応」対策の明文化である。第18回で取り上げたJR宝塚線脱線事故,第100回で取り上げた新潟県中越沖地震のように,個人情報保護対策への過剰反応が緊急を要する災害対策時の障害となるケースが幾度か発生し,全国的な問題となった。しかしながら,高齢者,障害者など「災害時要援護者」のリスト作成の状況をみると,必ずしも順調には進んでいないのが実情だ。「個人情報の保護に関する基本方針」は,国,地方自治体,独立行政法人,個人情報取扱事業者など,「官」「民」を横串にした個人情報保護の共通ルールである。法的拘束力はないが,過剰反応で明らかになった「官」と「民」の隙間をどこまで埋められるか注目される。

次なる課題は指定管理者制度・PFIに適した官民連携とIT利活用

 ところで,個人情報を取扱う「官」の側の仕組みも大きく変化している。その代表例が,第122回で触れた指定管理者制度やPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)だ。

 指定管理者制度は,多様化する住民ニーズに,より効果的,効率的に対応するため,公の施設の管理に民間の能力を活用しつつ,住民サービスの向上を図るとともに,経費の節減等を図ることを目的とする行政手法である。総務省が2007年1月に公表した「公の施設の指定管理者制度の導入状況に関する調査結果」によると,全国の6万1565施設で指定管理者制度が導入されており,そのうち約2割(1万12521施設)で民間事業者が管理業務を担当している。

 他方,PFIは,公共施設の建設,維持管理,運営などを民間の資金,経営能力および技術的能力を活用して実施する行政手法である。内閣府が発表した「PFIアニュアルレポート(平成18年度)」によると,国および地方公共団体でPFIが導入された分野は266事業。そのうち約4分の3(196事業)で運営業務を行っている(「内閣府PFIホームページ」参照)。

 指定管理者制度の導入分野は,「レクリエーション・スポーツ施設」「産業振興施設」「基盤施設」「文化施設」「社会福祉施設」で,PFIの導入分野は「教育と文化」「健康と環境」「まちづくり」「あんしん」「産業」「生活と福祉」「その他」となっている。いずれも,保健医療に関する個人情報,子どもの個人情報など,厳格な取り扱いが求められる個人情報を利用する業務が多く含まれている。また,運営形態に関わらず,災害対策基本法に規定された指定地方行政機関の公的施設である点は変わらない。

 しかしながら,指定管理者やPFIを担う事業者の中に,経営破たん,不適正会計,贈収賄,偽装請負,事故災害など,事業継続を左右しかねない問題が発覚し,地域住民が不安を感じるようなケースが起き始めているのも事実だ。例えば,市営プールの溺死事故,都営住宅のエレベーター事故,スポーツ施設の天井落下事故などでは,指定管理者制度やPFIをめぐる「官」と「民」の責任分担問題が表面化した。同じようなことが個人情報保護の分野で起きたら,混乱や過剰反応を招きかねない。新しい行政手法のメリットを生かせる官民連携とIT利活用の方向性を検討する必要がありそうだ。

 次回は,個人情報保護に関する国際的な取り組みへの対応について考察してみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/