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中国の情報通信分野の主管庁である「情報産業部」(信息産業部)が廃止となり,「工業・情報化部」(工業和信息化部)に生まれ変わった。既に正式に発足したが,まだ内部の部署は固まっていないようだ。今回の組織改正の前に,中国で通信・放送の融合に制度上の進展があるかとの噂があったが,結局その動きはなかった。かねてより噂される通信事業者の再編についても表立った動きはないが,工業・情報化部の決定権限は非常に限定的であるとみられ,今回の行政再編が及ぼす影響は小さそうだ。

(日経コミュニケーション)

 2008年の3月5日から18日まで,中国で日本の国会に相当する「全国人民代表大会」(全人代)が開催された。5年おきに開催される中国共産党大会が2007年10月にあった直後に開催された全人代ということで,高い関心を集めていた。特にかねてから噂されていた国務院(内閣に相当)の行政機構大幅再編(省庁の統廃合「大部制」)や,そこから影響を受けるはずの通信事業者再編の話もあり,特に通信業界ではその動向が注目されていた。

工業・情報化部として再出発

 国家指導部レベルの人事については,2007年秋の共産党大会で選出された習近平,李克強の両常務委員がそれぞれ国家副主席,国務院副総理に選出され,5年後の次の指導部への就任へ地場を固めた感がある。それとは反対に今後の方向性が不透明になった感があるのが通信関係の行政機構再編である。その結果は業界の多くの読みとは食い違った形となり,その中心にあるのは「工業・情報化部」の設立が決定したことである。

 これまでの情報通信分野主管庁であった「情報産業部」(信息産業部,MII:Ministry of Information Industry)は廃止となり,国防科学技術工業委員会,国務院情報化工作弁公室,国家煙草専売局及び国家発展改革委員会の一部と統合され,「工業・情報化部」(工業和信息化部,Ministry of Industry and Informatization)となることが決まった(図1)。

図1●中国の国務院機構改革の概要
図1●中国の国務院機構改革の概要
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 省庁再編の基本的考え方は,国内諸問題や世界の趨勢を考慮しながら,各省庁の責任範囲見直しと重複した行政機能の統合による効率化を目指し,政策・執行・監督という職能を明確化することにある。

工業化や最先端技術重視の結果か

 情報産業部は1998年の改革時に郵電部と電子工業部などが統合されて設立された。その後の企業部門の完全分離など市場経済の深化に伴い,かつての郵電部時代に比べ権限が縮小されてきた。

 「工業・情報化部」には,権限や責任範囲が狭い小規模な省庁が統合されたとの見方がある。その一方で情報産業部には軍関連の部局もあることから,国防科学工業委員会との統合は,軍事科学分野に重点を置いた工業化や軍民が一体化した最先端技術への重視とも推測できる。

 「工業・情報化部」部長(大臣)には李毅中・国家安全生産監督管理総局長の就任が決まったが,同氏は石油業界での経験が長く,情報通信分野とは縁のない畑の出身である。副部長には今後の転出が予想される現・情報産業部長の王旭東氏のほか,統合される各部・委員会等から1~2人ずつが就任することが決まっている。(注:5月14日,王旭東氏は電力部門の政策・規制機関への異動が正式決定)

 同部は既に正式発足したものの,部長・副部長レベルまでの人事しか決定しておらず,内部にどのような局などが設けられるかは5月14日時点で確定していない。建物には「工業・情報化部」の看板は掲げられていないという。公式ホームページもまだ旧組織のものが掲載されたままの状態だが,組織は5月中旬以降に最終決定すると報道されている。

 実際には各旧組織の既得権益の問題(一説にはこれまで国家発展改革委員会傘下にあった産業政策を担う組織の帰属をどちらにするかなど)があり,工業・情報化部の組織確定に特に時間を要していると言われている。

噂された放送分野との統合は見送り

 全人代が開催される前には,情報産業部が放送分野の監督官庁である国家ラジオ映画テレビ総局(国家廣播電影電視総局,SARFT:State Administration of Radio, Film and Television)との統合によって「三網(電話・インターネット・放送)融合」が進展すると噂されていた。しかし今回の「工業・情報化部」設立決定により,中国における通信・放送の融合の制度的進展については当面現状維持となったように見える。

 各種の報道があった,通信事業者再編や第3世代携帯電話(3G)ライセンス付与の問題にどういう影響があるかについては,業界の見方は現時点では定まっていない。ただし伝えられる通信事業者幹部たちの発言によれば,基本的に通信事業者再編を含めた通信分野への影響はないとする意見が大半である。

 これまでの情報産業部には通信事業者再編の決定権限は既になく,国有企業を管理する役割の「国有資産監督管理委員会」(SASAC)やマクロ政策を決定する「国家発展改革委員会」(NDRC)にその権限が移っていた。3Gライセンスについては,発給事務は情報産業部にあったものの,重要事項の決定権限は同部から離れていたものと推測できる。このため,通信事業者幹部の発言にあるように「工業・情報化部」となっても影響はないと考えられる。

 むしろ通信事業者再編の基本シナリオは策定が完了しており,水面下で着々とその準備が進められていると考えるのが妥当であろう。

町田 和久(まちだ かずひさ)
情報通信総合研究所
1986年東京外大中国語科卒業,NTT入社。北京駐在他海外関連業務を経て2004年より現職。中国を中心としたアジア地域におけるICT分野全般に関する調査研究及びコンサルティング業務に従事。


  • この記事は情報通信総合研究所が発行するニュース・レター「Infocom移動・パーソナル通信ニューズレター」の記事を抜粋したものです。
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