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市場の支持と声

 1996年4月17日。Libretto 20の製品発表会がメディア向けに開催された。会場は経団連会館と東芝本社39階の2カ所。そのときのパソコン部門における事業部長で,現在は代表執行役社長の西田厚聰氏が,新商品を説明した。

「ほらみたことか」

 出荷されたLibretto 20を見たPCユーザーは,本製品を熱狂的に歓迎した。それまで東芝社内であった様々な需要予測はすべて下方にはずれ,在庫が無くなった。営業部門から「ものがもうないんですけど」という悲鳴が届く。商品企画を担当した白髪氏は「ほらみたことか」と思ったという。

 すぐにゴールデンウィークがやってきた。ノートPCが一番売れる時期である。大人気のLibretto 20は在庫がない。「スタートダッシュができていれば,もっと売れたかもしれない」(白髪氏)。休みを返上して必死に増産しつつ,次の作戦を練る。

 そこから,Libretto企画・開発チームの怒涛の日々が始まる。消えたのはゴールデンウィークだけではなかった。1996年4月17日に誕生したLibrettoシリーズは,矢継ぎ早に新製品を投入する。そのペースは1年半で4台。11月5日にLibretto 30,翌1997年1月7日にLibretto 50,同年6月24日にLibretto 60,同年10月29日にLibretto 70である。異例のペースだった。

届いていたユーザーの声

 あまりに短期間で次々とバージョンアップしていくなかで彼らを鼓舞していたのは,始まったばかりのネット環境だった。ニフティのフォーラム「FTOSHIBA」では,熱心なLibrettoユーザーが活動を活発化した。製品のスペック,使い勝手,活用法,様々な事実,意見が日々書き込まれていく。裏蓋を一部切り取り,ハードディスクを増設する「裏切り」というテクニックなどがやり取りされていた。佐藤氏と白髪氏は,ここを見ていた。

 FTOSHIBAの書き込みが生かされたポイントは多々ある。その一つがキーボード。今では考えられないほどのキーピッチで,携帯電話のボタン並みの小ささだった。もう少しでもキーピッチが広いほうが打ちやすいという声を受けて,1列をエミュレートさせることで1列節約し,よく利用するキーのピッチを広げた(写真7)。

写真7●ユーザーの声を反映して,改善されたキーボード
写真7●ユーザーの声を反映して,改善されたキーボード

 リブポイントも改良された。Libretto 20が備えていたリブポイントの操作部は,表面がツルツルで,少し汗をかくと滑って操作しにくい。FTOSHIBAなどの声に加え,そのころ年数回開催されていたWorld PC Expoのようなコンシューマ向けパソコンの展示会で,試作品を投入して,反応を見る。改良版として採用されたのは,表面に滑り止め加工をほどこしたものだった(写真8)。自動車の内装に用いられる技術を応用した。

写真8●リブポイントに加えられた,滑り止め用素材
写真8●リブポイントに加えられた,滑り止め用素材

 これらの改良は,またFTOSHIBAなどを通して,反応が得られる。またそれをもとにして,改良を続ける。新しいものを考える,というよりも,それだけ多くの声をもらっているからそれをなんとか解決して,もっといい,もっと受け入れてもらえるものを作ってやろうという気持ちが強かった。

 こうして,Librettoシリーズは約2年間,売れ続けた。外でパソコンを使うというスタイルは,現実になった。