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時代はサブノートへ

 1997年,ソニーの「バイオノート PCG-505」が登場した。薄くて高性能――。入力しやすいキーボード,広い画面,カバンに入れても苦痛にならない重さ,薄さ。Librettoとはサイズ,スタイルともに違うものの,市場により広く受け入れられた。PCを製造する各社が,様々なスタイルで参入し,一度広がった市場は,外でPCを使うならモバイルノート,サブノートという認識で収束した。

 次第にLibrettoは売れなくなった。現在,Librettoシリーズは出荷されていない。開発も行われていない。この流れは,ビジネスとして,またパソコン・ユーザーの目線からも,様々な見方があるだろう。ここでは,当事者がどのように見ているのかに注目したい。

 商品企画の白髪氏の見方はこうだ。「このようなモバイル向けパソコンは,お客様の使い方によってどこがポイントなのか,それぞれ大きく違う。それゆえ“ある形で出せばだれもが満足してくれる”というものは本当はないと思っている」と前置きしたうえで,「残念ながら今,Librettoで満足してくださるお客様は,そんなに多くない。もしかしたら,Librettoのようなサイズが再び注目される時代がくるかもしれないし,ないかもしれない」。売り上げという結果が明快な世界で,しっかりと現実を見ている。

 開発担当の佐藤氏は,特定の製品に向けた集積化の流れの始まりだと認識していた。ある製品だけに向けて,専用のASICを作り込んだ。Libretto 20とともにこの技術は育ち,ほかの様々な製品にも生き続けている。技術者として,製品と技術を,きちんと分けて評価しているようだ。

 製品への愛着もある。今でも映画や特撮映画を見て「あ,Librettoを持ってる!」と見つけるとうれしく感じるという。そして,愛でるようにLibretto20を触りながら「今思うと,この色全然売れないですよね」と笑った。現在は,家庭向けにAV機能を強化したノートパソコンのQosmioシリーズを担当。期せずして,東芝の最も小さいパソコンと最も大きいパソコンの開発に携わっている。

 「『Windowsパソコンを外に持ち出して使うことができる』ということで,世の中を多少は変えられた」(白髪氏)。「今でも作りたい」(佐藤氏)。彼らは,成功した製品を目の前に,穏やかな笑顔でそう語った。

 「チャンスの神様には前髪しかない」。取材から帰って筆者はこんな言葉を思い出した。チャンスの神様は足が速く,おまけに頭頂部と後頭部ははげていて髪がない。通り過ぎる前につかまないと逃がしてしまうので,チャンスはすぐつかめ,という話である。

 彼らは,適切なタイミングでチャンスをつかんだ。反対意見や否定の言葉の中でも,つかんだチャンスを手放さなかった。製品を発売し,市場に受け入れられても,まだそのチャンスをつかみ続け,改良した。

 PCに対する世間の期待の高まり,Windows 95の登場,集積回路技術――様々な背景はあるだろう。しかし筆者には,Libretto 20という製品が生まれたカギは,各部門の担当者が,「Windowsパソコンを外に持ち出したい」と思い,それを実現するチャンスをつかみ続けたことにあったのだと感じた。