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 前回は「個人情報の保護に関する基本方針」変更について取り上げた。今回は,個人情報保護対策を,国際連携の観点から考察してみたい。

ICTの悪用で国際人権問題に発展する少年非行事件

 日本は,1994年に,国連の国際人権規約に基づき,児童の人権の尊重及び確保の観点から必要な事項を規定した「児童の権利条約(児童の権利に関する条約)」を批准した。2005年には,性的搾取などから児童を保護するため,児童の売買,児童買春及び児童ポルノに係る一定の行為の犯罪化,裁判権の設定,犯罪人引渡し,国際協力などについて定めた「児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書」を批准している。

 しかしながら,国連・児童の権利委員会は,日本の児童プライバシー保護や児童買春・児童ポルノの防止対策に対して,厳しい評価を下してきた。その具体的内容や日本政府の対応状況については,外務省ホームページの「児童の権利条約(児童の権利に関する条約)」で公表されている。ICT(情報通信技術)に関わる記述も多いので,一読しておくことをお勧めする。

 第130回で触れたように,インターネット/モバイルが何らかの形で関係した少年非行や少年が被害者となる事例が最近目立っており,中には国境を越えた事件も含まれている。例えば,警察庁の「少年非行等の概要(平成19年1月~12月) [H20.2.25 更新]」では,以下のような事件が挙げられている。

会社役員等による児童ポルノDVDの輸出及び
海外サーバへの保管事件(大阪)


18年(2006年)2月,会社役員(42歳)等は,児童ポルノDVDを米国に輸出するとともに19年1月から同年10月ころまでの間,同国のサーバに開設した会員制サイトに児童ポルノ等のわいせつな動画を保管した。12月,同会社役員等を検挙した。

 これが「児童の権利条約」の趣旨に反する事件であることは言うまでもないが,動画の中に特定個人を識別できる情報が含まれていれば,個人情報保護上の問題が関わってくる。

 さらに問題を複雑にしているのは,DVDの流通先,動画ファイルの保管先がアメリカ国内である点だ。一国の事件にとどまらず,ICTを悪用した国際人権問題になっているのである。日米を含む主要8カ国首脳会議(G8)は2003年,インターネット上の性的搾取から児童を保護するためのG8児童保護戦略を承認しており,再発防止策の徹底が求められる。

ICTの悪用を防止するためのICT利活用が子どもを守る

 さて,2008年4月25日に閣議決定された「個人情報の保護に関する基本方針」の一部変更では,「個人情報保護に関する国際的な取り組みへの対応」として,OECD(経済協力開発機構),APEC(アジア太平洋経済協力会議),EU(欧州連合)等で進められている国境を越えた取り組みを踏まえ,「国際的な協調」の項目に「プライバシー保護に関する越境執行協力等」という文言が加わった。海外での取組状況については,基本方針変更の検討作業に関わった「第21次 国民生活審議会 個人情報保護部会」の配布資料でいくつか紹介されている。スパム,不正アクセスなど,海外に起因する情報漏えいへの対策を検討する際に,国際協調は欠かせないテーマであり,注視する必要がある。

 国民生活審議会の個人情報保護部会では,子どもの個人情報保護対策に関する議論も交わされたが,今回の基本方針変更には盛り込まれなかった。前述の通り,児童のプライバシー・個人情報保護対策は,国連・児童の権利条約やG8児童保護戦略との関連から注目される課題であり,セキュリティポリシー共通化,情報セキュリティ対策など様々な分野で,国際間連携へのニーズが高まることが予想される。

 子どもの「安全・安心」を確保するためには,ICTの悪用を未然に防止するICTソリューションの開発が求められる。今後,インターネット/モバイルで,テキストから動画へのシフトが進行すれば,個人情報か否かの判断や精度の高い検索/フィルタリングを支援する技術が必要になるだろう。北海道洞爺湖サミットの議長国としても,子どもの「安全・安心」を担保するICT利活用の国際間連携は避けて通れない課題だ。

 次回は,健康医療分野の個人情報保護対策について考察してみたい。


→「個人情報漏えい事件を斬る」の記事一覧へ

■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。医薬学博士

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/