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東武百貨店は2007年10月2日、約20年ぶりとなる基幹系システムの全面刷新を完遂した。費用は約8億円。構想時は“相場”から見て、その倍はかかる規模だった。業務ごとにシステムの特性と停止時の影響度を調べ、リライトか再構築かを見極めた上で、13社のベンダーから提案を募った。開発開始から稼働まではわずか1年半。情報システム部の人材育成でも大きな成果が得られた。

 「本当に予算内で基幹系システムを全面刷新できるのか」。東武百貨店の情報システム部、葛馬正記部長は、ベンダーからの提案書が出てくる間、じりじりしていた。相場の半分といえる低予算を前提に綿密なRFP(提案依頼書)を作ったが、自社だけでなく同業種でも前例がないため、いまひとつ自信を持てなかった――。

 それから1年半後の2007年10月、予算通りの費用と期間で、新たな基幹系システムがオープン系プラットフォーム上で動き出した(図1、2)。売り上げ管理や商品の仕入れ管理、売掛・買掛管理や顧客管理など、東武百貨店の根幹を支えるシステムとして、約1カ月滞りなく運用できている。葛馬部長は、「我々のやってきたことは正しかったとようやく実感できてきた」と言う。

図1●東武百貨店は約20年ぶりに基幹系システムを全面再構築した
図1●東武百貨店は約20年ぶりに基幹系システムを全面再構築した
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図2●東武百貨店の新基幹系システムの構成
図2●東武百貨店の新基幹系システムの構成
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 同社情報システム部では低予算を前提に、部員約30人がほぼ総出で既存業務の分析にかかった。目的は、要件の選択と集中。削れる機能、どうしても必要な追加機能、必要な信頼性のレベルを、業務ごとに調べ尽くしてきた。1年余りの期間を費やし、途中曲折もあったが、この取り組みはプロジェクトの成功に大きな貢献を果たした。

 「システムの全面刷新は、人生のなかで何度も経験できるものではない。プロジェクトを通して部員一人ひとりが、いろんな意味でステップアップできた」と、葛馬部長は振り返る。

迫り来る“20年モノ”の限界

 東武百貨店が基幹系システムの刷新を検討し始めたのは、プロジェクトが正式にスタートする1年前の05年4月。当時、基幹系システムが稼働しているメインフレームのサポート終了時期が迫っていた。

 日本IBMのメインフレームOSである「OS/390(V2R10)」のサポート終了は05年11月で、有償の延長サポートも07年12月に終わる。東武百貨店には、後継OSの「z/OS」に載せ替える選択肢も残されていた。

 しかし、「小さな機能変更でも2週間費やすようになったシステムを、新たに投資してまで延命することは考えられない」。情報システム部システム推進担当の井上直樹マネージャーは、こう判断した。20年近く機能の追加・変更を重ねたため、プログラムは麺が絡まったスパゲティ状態になっていた。

 さらに内部統制強化の波も、基幹系システムの全面刷新を後押しした。同社は非上場であり日本版SOX法は直接関係しないが、親会社である東武鉄道の連結決算の約3割を占める。処理の正当性を保証できるように、システムの処理内容を文書化したり、承認フローやアクセス管理といった機能を新たに組み込んだりする必要があった。

 これまでも何度かシステムの刷新構想は浮上した。だが、百貨店業界の経営環境は厳しく、思い切ったIT投資の決断は先送りされてきた。「今回のタイミングは逃せない。しかし、そう簡単には認められないだろう」。葛馬部長は経営陣にシステム刷新の必要性を理解してもらうために、刷新構想を具体化するタスクフォースを情報システム部内に設置。システム構築の費用をねん出する作戦を立てることにした。

 タスクフォースでは、運用コストの3割を占めていたメインフレームをダウンサイジングし、5年のトータル・コストを15%減らす計算で、新システムの構築・運用費用を算出するプランを描いた。そこから初期費用は約8億円と導き出される。「ゼロから再構築なら、相場ではこの2~3倍かかる。本当にこれで基幹系を刷新できるのか」。葛馬部長は不安を残しつつも、これで進めるほかなかった。